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#シロクマ文芸部 「雪だるま」~短編小説~

小牧幸助さんのお遊び企画「雪だるま」に参加します。

よろしくお願いします。

消えない雪だるま


雪だるまは、春が来ても溶けていなかった。

そう、その雪だるまだけ。

公園の隅にぽつんと立つその雪だるまは、もう誰が作ったのかも忘れられていた。

帽子もマフラーもない、ただの白い塊。

けれど、毎朝通勤途中の人々は足を止め、一瞬だけ視線を投げる。

「まだ残っているんだな」

誰かがつぶやく。

雪はとうに消え、桜が咲き始めている。

にもかかわらず、その雪だるまだけは冷ややかに光を放ち、夜には淡く青く輝いた。

そのうわさを聞いた僕は、休日にその公園を訪れた。

触れると、何かを吸い取られるという。

罪か、記憶か、あるいは後悔か。

半信半疑のまま、僕は手を伸ばした。

手袋を外し、指先でその氷の肌に触れる。

次の瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。

同時に、長く押し込めていた記憶がぼんやりと浮かぶ。

あの日、病室で。

母が意識を取り戻したと連絡を受けたのに、僕は仕事を優先した。

間に合わなかった。

その後悔は、季節がいくつ巡っても溶けなかった。


「あなたが作ったの?」

隣に小さな女の子が立っていた。

五歳くらい、手には小さな花束を握りしめている。

「ううん。でもね、この子ね、泣いてる人の気持ちを食べて、おなかをいっぱいにするの」

そう言って女の子は雪だるまの頬を撫でた。

僕には確かに、雪の中からほのかに温かい風が返ってきた気がした。


その夜、夢を見た。

雪の降る原っぱで、白い影がぽつんと立っている。

母が微笑んで、その影の向こうへ消えていった。

目を覚ますと、涙の代わりに静かな安堵が胸いっぱいに広がっていた。

数日後、公園を訪れると、雪だるまはいなかった。

代わりにそこに、小さな水たまりと、溶けかけの花束が残されていた。

風が吹き、淡い桜の花びらが舞う。

私は目を閉じて、小さくつぶやいた。

「ありがとう」

春の光が頬を照らし、心の奥に残っていた氷が、ようやく静かに溶けていった。

  ~ 終 ~


#シロクマ文芸部

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