#シロクマ文芸部 揺らぐ世界で、わたしを選ぶ~短編小説~
小牧幸助さんのお遊び企画「風が吹く」に参加です。
締切は4/1(水)23:59だそうです。よろしくお願いします。
※この物語はフィクションです。
風が吹くから、境界が揺らぐ。
それは、誰も気づかない世界の呼吸。
ミカは、町のはずれにある丘の上で暮らしていた。
霧の多い土地で、風が吹く日はいつも、空が少しだけ歪む。
その境目に立つと、現実と夢の輪郭がぼやけていくのを感じるのだ。
ある日、丘でスケッチをしていると、風が不意に強くなった。
草木が逆さに揺れ、空と地面の色が入れ替わる。
次の瞬間、世界が静まり返った。
ミカは見慣れた町に立っていた。
けれど、人々の顔がどこか違う。
知っているはずの景色の中に、見知らぬ香りが漂っていた。
家に帰ると、扉の前で少女が立っていた。
自分と同じ顔、自分と同じ瞳。
けれど、その表情は、どこか柔らかい。
「あなたも、風に呼ばれたの?」
その声は、ミカが夢で何度も聞いた声だった。
二人は、互いの世界について語り合った。
片方の世界では、母が病に倒れている。
もう片方の世界では、母は元気だが、ミカが絵を描くことをやめていた。
「どちらが本当なんだろうね」と少女がつぶやく。
ミカは風の音を聴いた。
風が吹くたび、二つの世界が重なり合い、薄い膜のように震えている。
翌朝、丘の上には再び風が起きた。
少女は微笑み、「私がこちらに残る。あなたは、あちらへ」と言った。
ミカはためらい、手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、風が強く吹いた。
気づくと、いつもの部屋に戻っていた。
机の上には、一枚のスケッチ。
そこには、風の中で背を向ける自分の姿が描かれていた。
どちらがこちらで、どちらが向こうなのか。
それはもう、確かめようがない。
けれど、風が吹くたびに、ミカは空を見上げる。
世界の境い目が、かすかに震えているのを感じながら。
風が吹くから、境界が揺らぐ。
夢と現のあいだで、呼吸が続いている。
~ 終 ~
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