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#シロクマ文芸部 沈黙の風鈴~短編小説~

小牧幸助さんのお遊び企画「風が吹く」に参加です。

締切は4/1(水)23:59だそうです。よろしくお願いします。

※この物語はフィクションです。


風が吹くから、音が生まれる。
けれどミナは、そのことを知らなかった。

耳の聞こえない彼女にとって
世界はただ、光と影と揺らぎでできていた。

風は、頬を撫でるもの。

木々を揺らす力。

けれどそこに「歌」があるなんて、思いもしなかった。


ある夏の日。

商店街のはずれ、小さな工房の軒先で、風鈴が鳴った。

誰もが立ち止まり、少しだけ笑った。

ミナはその笑顔の理由を探して、風鈴職人の老人に声をかけた。


言葉を持たない彼女に、老人は手で示した。

風が歌っているんだよ、と。

ミナは首をかしげる。

老人は、彼女の手をとり、揺れる風鈴の下に導いた。

金属の冷たさの中に、かすかな震え。

彼女の指先を、風が通り抜けた。


その日から、ミナは工房に通った。

風の形を学ぶように。

鈴の響きを、目と手で覚えていった。

強い風は、荒くて熱い。

朝の風は、やさしく、少し甘い。

音は、きっと光に似ている。

目に見えないけれど、確かに存在している。


冬が近づくころ、老人が倒れた。

病室でミナは、彼が作りかけていた風鈴にそっと触れた。

そこに風はなかったが、確かに息づかいを感じた。

春になり、老人の工房を受け継いだミナは、一つの装置を完成させた。

透明な管と羽根、そして金属片でできた、奇妙な風の箱。

風が通り抜けるたびに、羽根が回転し、微細な震えが板に伝わる。

その揺れをミナは掌で受け止めた。


まるで、彼が話しかけてくるようだった。

ミナは笑った。音は聞けなくても、「音の形」を感じられる。

風は彼女に語りかけることをやめなかった。

そして今日も、工房の窓辺で新しい風が吹く。

風が吹くから、音が生まれる。

音があるから、記憶が息をする。



 ~ 終 ~



#シロクマ文芸部


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