黒い女と罪ある聖者(エスキス) 鬼りんご
*黒い女と罪ある聖者(エスキス#1)
地球 このセクシーな星もまたわたくしたちの宿命だらうか/
爛熟の原色亜細亜はひとびとの泥流すらふつふつと煮えてゐるか/
聞きなさい/
重ねた盗みの罪が染み込んだのは わたくしの幼稚な手である/
動悸を隠すわたくしの仄かに甘い口から嘘が吐かれなかつた日は無く/
わたくしの裏切りに 呪ひの呻きを洩らさなかつた者は稀である/
やはらかい命の数数はわたくしの手で無造作に殺められた/
わが姦淫の日日 あらゆる年齢の女体がわたくしの情欲に弄ばれた/
**淫らなる聖者は犯した罪に灼かれて何度でも気化し/
この星にみなぎる水にざぶと浸され 晒しに晒されて死ぬことのないわたくしである/
深い嘆きは深い罪が流す涙である/
肌の黒いのは女の科ではない/
肌の黒いのは女の徳ではない/
黒い潤ひのかがやきは女の選んだものではない/
さうした事情をわたくしほどよく承知してゐるものは地上に稀である/
ただ地の底が熱いやうに女は黒く/
ただ吹く風が寂しいやうに女は黒く/
ただわたくしの五体が疼くやうに女は黒い/
直と曇り知らぬ瞳はその肌とひとつのものか別個のものか/
決然として怯まぬまなざしは罪を赦すものか罪を知らぬものか/
女よ と わたくしの渇きが呼びかける/
黒いとはどういふことか/
肌が黒いといふことがなぜなくてはならないか/
その黒にわたくしは迷ひ その黒にわたくしは溺れて/
答へよ ***聖者にとつて黒とは何か/
そのやうなわたくしの罪の電流を際限も無く注がれて/
蘇つてくれとわたくしは願ふ 黒い女よ/
*タイトル「黒い女と罪ある聖者」は、もちろんジャズ・ミュージシャンであったチャールズ(通称チャーリー)・ミンガスCharles Mingus (1922~1979)のアルバムのタイトル「黒い聖者と罪ある女」The Black Saint and the Sinner Lady(1963, Impulse! Records)の、聖者Saintと女Ladyを入れ替えたもの。
**「淫らなる聖者」は、詩集「聖なる淫者の季節」(白石かずこ)のタイトルの「聖」と「淫」を入れ替えたもの。
***「言語にとって美とはなにか」吉本隆明
(単なるエスキスであるが、このまま放置された場合には「こどもだま詩宣言」対応 とする。原文縦書き・行末スラッシュ無し)
