篝火(かがりび) #noteでBL 企画参加作品
なみさんと楓莉さんの企画にまた参加させていただきました。今回ちょっと体調を崩して期限を過ぎてしまった…申し訳ありません💧
こちらから他の方のが読めます↓
激重感情仄暗不穏ブロマンスを1万字以内でBL、という事で(なんか増えてる気が)、4600字ちょいです。5千字超えなかった… なぜかお題が途中で飛んでしまってあわててねじ込みました。指と髪の毛は入れるとR18Gになりそうなので控えてます🙏 仄暗い?のかどうか…わりと長くなった気がしたけど清書したら全然でしたね!
前回と前々回とは違う人々が出てきます。よかったらどうぞ。
篝火(かがりび)
その日、明が学校から帰ると母親の孝子が慌ただしく出かけようとしていた。
「母さん、どうしたの」
「ああ、おかえり。武がね…」
と顔を曇らせる。
「あいつ、また何かやったの」
彼は苛立ちを隠そうともせず言い放つ。
「同じクラスの子を階段から突き飛ばしたらしいの。
事情を聞くために学校と病院に行ってくるわ。お兄ちゃん、よろしくね」
母はそう言うと、菓子折りを手にそそくさと外へ出た。それを見送りながら舌打ちする。
「あいつ…」
そして、二階の自分の部屋へ足音も高く階段を駆け上った。勉強机にカバンを乱暴に置くと、ドスンとベッドに転がる。
今日はテストで満点に近い点を取れたから気分が良かったのに、さっきの話で台無しだった。
──なんであいつはああなんだ。
ムシャクシャしたまま天井を見つめる。4つ下の弟は、小さい頃はやんちゃでかわいいと思っていたが成長するにつれ気性が激しくなり、絶えず怪我をしたり悪戯したり友達に怪我させたりと、ひっきりなしにトラブルを起こすようになった。
母や彼が嗜めても、次の日には同じような事をしでかす。その繰り返しだった。おかげで、母はお詫びの品を常備するようになる。そんな物は必要ないと言えないのも、明は悔しかった。
「全く、周りの迷惑を考えないで…」
気持ちが落ち着かないまま、友人の所へ行く準備を始めた。
弟の武はとても扱いにくい子供だった。生まれてからほとんど笑顔を見せず、まだ何も話せない頃から、不満があるとブーブー文句を言った。
長男は赤ん坊の頃、絶えず笑顔を見せていたので、両親が同じ兄弟でもこうも違うものかと母親は内心意外に思いながら世話をした。彼女はおっとりしていたので、彼の性格がそれほど問題だとは思っていなかった。
長男は穏やかで、めったに癇癪を起こさずたいていにこやかにしていた。周りの子と仲良く遊び、おもちゃを取られても怒る事はなかった。学校に上がってからは、言われなくても自分から勉強に取り組み、周りの子らにも親切に接したので、先生や大人から可愛がられて成績も優秀だった。
弟はと言えば、小学校に入るとすぐ問題を起こし、母親は毎日のように学校から呼び出された。気難しく、少しでも気に入らない事があると抗議をし、自分の要求を通そうとした。勉強もいくら言いきかせてもやりたがらず遊んでばかりいたので、テストはほとんど一桁台を取り成績は下がる一方だった。彼は周囲から理解を得られず、だんだん孤立していった。
もっと注意深く観察していれば、彼は何らかの発達障害を持っていると分かったかもしれない。けれど、これは30年以上も前の事なので、そういった知識が一般には浸透していなかった。そのため、ただの堪え性のない乱暴な子どもと認知されてしまった。
そんな風に、性格も性質も水と油のように正反対な2人だったので、当然反りも合わず反発ばかりしていた。また、父親の弘之が弟を毛嫌いし、いつも叱りつけるので余計に反抗して、兄が世話を焼こうとしても撥ねつけるばかりだった。
その後武は高校には入ったが、1年も経たずに中退してしまった。近くの街にある金物屋に職人の見習いとしての仕事を始めたが、すぐに辞めてしまい、職を転々として定職に就かなかった。付き合っていた彼女と所帯を持ち子どもも授かっていたが、妻が内職やパートで何とか食いつないでいた。
母親の孝子が心配して、父親に隠れて時々仕送りをしていたが、たまにばれて殴られることもあった。けれど、武の家族の仲は良く、それなりに幸せに過ごしていた。
世間や大人からは冷たい目で見られていたが、武は仲間思いで愛情が深かったため、似たような性格の仲間が周りに大勢いた。共にオートバイに乗ったり、ボートで釣りをしたり、猟で鹿や鴨などを撃って狩りを楽しんだりした。
兄は高校を卒業した後、働きながら夜間の大学を出て、数年後に弁護士の資格を取った。お見合いで知り合った女性と結婚し、平穏な家庭を築いていた。
けれど、一緒に住む両親の元へ次男がふらっと立ち寄って金の無心をする事がたまにあった。たいてい父親は怒りだし、最後には殴り合いの喧嘩になって母親がそれを必死に止める。
「こんな家、もう二度と来るか!」
と武は捨て台詞を吐いて実家を飛び出す、それの繰り返しだった。
孝子は次男をかわいいと思っていたが、父親が亭主関白だったため、彼が怒り始めるとなす術もなくただ見ているだけだった。弟はそれも辛かったのだろうか、仕事を始めるとだんだん実家へ寄り付かなくなっていった。そんな風に、両親や兄弟の溝は次第に深くなっていった。
「いいよな、アニキは。みんなから好かれてて」
兄弟が一緒に住んでいた頃、何かの拍子に武がそう漏らした事がある。
「なっ…」
明は言葉に詰まった。
──それは、お前が周りに優しくしないからだろう。
けれど、そう言っても弟はおそらく理解しないだろう。明はハア、とため息をついた。
「そんな事はないだろう」
「あるさ。近所のババア共はみんな『明くんはいい子なのに、武くんは何であんなんだろうね』って言ってるぜ」
「その言い方がよくないんじゃないか。口を慎め」
「ハイハイ。全く、なんでこんな優等生のアニキと兄弟なんだろうな。肩身がせまいぜ」
それはこっちのセリフだ、と思う。どうしておまえは周りの人達に心を配ったり、合わせようとしないのだろう。なんで自分勝手な事ばかりして、家族を困らせるのか。
「とにかく、あまり父さんに刃向かうな」
武はサッと顔色を変え、テーブルをドンと叩いた。語気も荒く
「そんな事はしてねえ。親父が勝手に俺を悪者扱いするんだよ」
と怒鳴り返す。血が昇り始めている、と明は頭の隅で感じた。
「父さんはお前の事を心配してるんだよ」
「…そんな事はないさ。きっと俺なんかとっとといなくなればいいと思ってんだ」
片膝を立ててそれを両腕で抱きしめる。本当は父親にもかまって欲しいのに、いつも拒絶されて寂しいのだろう。血の繋がった肉親に疎ましく思われるのはつらかろうと、胸中を察した。
「どうせ、兄貴もそんな風に思ってんだろう」
こちらをじっと見据えながらそう言われる。心を見透かされたようで、思わずたじろいだ。
「そんな事は思っていない」
「嘘だ。俺はちゃんと分かってる」
二人はじっと睨み合う。どちらも退こうとしなかったが、やがて先に視線を逸らしたのは兄の方だった。
「…まあ、ほどほどにしろよ」
そう言うと、自分の部屋へ上がっていった。
***
最近明は弁護士の仕事が忙しく、夜遅くまで家に帰ってきていないようだった。
「兄さんはしっかりしているから大丈夫だろう」
と武は思っていた。しかし、たまに見かける彼は憔悴して以前よりやつれた様子で、少しばかり気がかりだった。
ある晩、武の家の電話が鳴った。
「はい、杉崎です」
彼の妻の恵理子が出て、とたんに顔をサッと曇らせる。
「あなた、お義母さんから…」
武に受話器を渡す。
「まさか……そんな」
彼は耳を疑った。明が電車に飛び込んだという報せだった。彼の家に駆けつけると、明の妻と母親が取り乱していた。
「お袋、とし子さん」
「ああ、武。明が…」
そう言うと孝子は泣き崩れた。
「今朝はいつも通り仕事へ行ったのに」
妻のとし子はそう言った後、言葉を失う。その日の朝出勤して、そのまま電車の線路に飛び込んだらしい。遺書はなかった。
「なんでそんな事に…」
武は苦しげにつぶやく。
「もしかしたら、今引き受けている案件のせいかも」
震える声で義姉が話しはじめた。
「交通事故で子どもを亡くした両親が、加害者の運転手を訴えていたんですが、業務上過失致死の判決が出て。
上告したけど、証拠不十分で取り下げられちゃって」
「…それで?」
「母親の方が気が狂ったようになって、自殺騒ぎになったって言ってたの。私がもっと気をつけていれば…」
と青ざめた顔で言う。
「そんなの加害者が悪いだろう! 兄貴のせいじゃない!」
武は怒鳴った。
「明さんは『ご両親の希望に添えなかった。俺は無力だ』って悩んでいたの」
そうは言っても、1つの事件に兄はそこまで拘るだろうか。
「亡くなったお子さんがうちの子と同じ歳だったのよ。それで余計に同情して、参っちゃったのかも」
「でも、だからって…!」
武は激昂するが、もうどうしようもなかった。
数日後、しめやかに葬儀が執り行われた。家族と一部の親戚だけで家族葬を行った。明の一人息子の陽が
「おとうさん、どうしたの」
と無邪気に聞いていて、とし子は涙をこぼしていた。
武は式の最中、ずっと体中に怒りが渦巻いていた。暴れ回って、何もかもめちゃくちゃにしてしまいたい。けれど、そんなことをしたらとし子はもっと悲しむだろう。グッと拳を握り締め、衝動を何とか抑え込んだ。
酒は強いはずなのに、精進落としで飲み過ぎて悪酔いし、潰れてしまった。母親と恵理子が介抱して何とか自宅へ戻った。
それから四十九日が過ぎて三ヶ月ほど経ち、少しずつ元の生活に戻りつつあった頃、孝子から連絡が来た。
「久しぶりに家に来ない?」
兄の家の離れに住んでいる両親の所へ足を向ける。兄の家にも明かりが点いており、義姉がいると分かったが、彼女の気持ちを思うと訪ねる気にはなれなかった。
「親父は」
「仲間と山に行っているわ。あなたと顔を合わせても、喧嘩になるしね」
縁側から上がってこたつに入ると、孝子がお茶を淹れてくれる。
「調子はどう」
「まあまあ」
本当は競馬で50万ほど擦っていたが、それは言わずにおいた。兄が亡くなってから気分が塞ぎがちで、競馬やパチンコなどに金をつぎ込んでいたが、今回の件で弱っている母にこれ以上心配をかけたくなかった。
「そう言えばあの日、あの子からあなたに伝言を頼まれていたの。すっかり忘れていたんだけど」
思わず母親の顔を見る。
「あの日って…」
彼女はうなずいた。
「あの日の朝、仕事へ行く前に明が来たのよ。少し雑談した後に
『武に言っといてくれ』って」
「なんて?」
「…『お前は長生きしろよ』って」
長生き? 自分はさっさとあの世に行ったくせに、なんだよその伝言は。
「兄貴は勝手すぎる」
と思わず首を振る。
「あの子はいつもあんたを気にしていた。あんたの事を心配してずっと見守っていたのよ。
…たった2人の兄弟なんだから」
だからきっとそう言い残したんじゃないかしら、と俯きがちにつぶやいた。
訃報を聞いても泣けなかったのに、急に目の前が霞んでくる。
「なんだよ。俺のことが疎ましかったんじゃないのかよ」
「心配だから厳しく言っていたのよ。嫌いならうるさく言わないわ」
そう言って、孝子は瞳を潤ませる。
『たけし』
小さい頃に、そう呼びながらよく頭を撫でてもらった。兄が持っているおもちゃを欲しがっても、すぐに譲ってくれた。遊びに行く時も一緒に連れて行き、学校を出てからも何くれとなく声をかけてくれた。
「兄さん…」
帰りの駅でぼそりとつぶやく。最期に会った時もささいな事で口論になり、暴言を吐いた後に
「もうあんたの顔も見たくない!」
と言ってしまった。兄は怒りに満ちた顔をしていたが、その表情には悲しみも混じっていた。心にもない事を、つい口にしてしまっただけなのに。
──俺だってもっと兄貴と話をしたかったし、一緒に過ごしたかった。
けれど仲直りをしたくても、どんなに話をしたいと願っても、彼は手の届かないはるか遠くへ行ってしまった。
もう二度と、会えない。
それを実感した時、ひたひたと胸に何かが押し寄せてくる。
「う、う…」
霞み始めた駅のホームで、低く押し殺した嗚咽が響いた。けれど到着した電車もなく無人だったため、その声を聞く者は誰一人としていなかった。
了
注※ 作中で発達障害についての記述がありますが、気性が荒かったり勉強が好きでなくても、発達の判断をされるという訳ではないです。たまたまこのキャラがそうだったという話で、人によって特性は違うし、そういった方たちがみんな配慮が必要という訳でもないので、ご理解いただけますようお願いいたします。
また、この話は発達の方達を貶めるなどの意図は全くありません。どんな方でも生きやすい世の中になればとは思っております。
粗い所があるので後で修正するかもしれません。1週間後くらいにまた読み直したら変わってるかも()
読んでいただきありがとうございました。
