毒食らわば皿まで(お題 焼き肉)
僕は、もうもうと立ち上る煙を見ていた。向こう側で、彼女は次々と肉を網に乗せている。
彼女は席につくと、メニューをちらりと見ただけで矢継ぎ早に店員にオーダーした。
「ロース、タン塩、ハラミ、ホルモン、
あとサンチュ……全部2人前で」
そして、テーブルに来た物から片っ端に焼いて口へ運んでいく。
僕はその一連の動作をまじまじと見ているだけだ。
淡々とも言ってもいい箸の動きをふと止めて、彼女は聞いた。
「食べないの?」
「……あ、うん。いただきます」
と肉を取ろうとするが、網の上にはもう何も残っていない。
「早く取らないと、食べちゃうよ」
と言って彼女はまた載せていく。
けれども、彼女の豪快な食べっぷりについ目を奪われて、食べるのを忘れてしまうのだ。
「……しょうがないな、もう」
彼女は自分の皿に取ったものを分けてくれる。
そのロースはギラギラと油で光っていて、いかにも重そうだ。
「……」
僕は一口かじってみる。それだけでもう、腹がいっぱいになったような気がする。店に入った時はわりと空いていたはずなのに…
咀嚼してなんとか飲みこみ、箸を置いた。
「もういいや、ごちそうさま」
「え……?全然食べてないんじゃない」
彼女は首をかしげるが、僕は笑顔を張りつけてうなずく。
すると、しばらく訝しげな顔をしていたがまた箸を動かしはじめた。
だいたい2人で食事に行くとこんな感じになる。
そして、僕たちはつきあってはいない。
食事をしながら、異性との交遊関係の話を聞かされるだけだ。
僕はその話でもう胃が一杯になる。
彼女に好意はあるような気はするが、肉や食べ物をパクパクと食べている様子を見ていると、その気持ちまで食べられてしまう気がするのだ。
そうすると、僕の手元には何も残らなくなってしまう。食欲も、彼女への何かしらの思いも。
というわけで肉体関係はいまだにないけれど、最近はこういうのもいいかなと思いはじめている。
***
焼き肉を食べたらその2人は……という話はウソだ。
彼とは1回も寝ていない。
気を引きたくて、ある事ない事を話すけれど、うんうんとうなずいているだけだ。
本当に聞いているかどうかはよくわからない。
今日こそはと思って誘うが、食事をする関係にはなれても、それ以上はなぜか進まない。
なぜなんだろう。
こんな人、もう好きでいるのは止めようか。
そう思っても、また休みの前の日になると「食べに行こうよ」
と電話を入れているのだ。
自分からそれ以上の関係になるよう誘ってもいいが、なんだか恥ずかしくていまだに誘えない。
そして、今日もまた電話をかける。
僕は、
私は、
ため息をつく。
「「あーあ。何とかなんないかな、この関係」」
了
1話から↓
