壊れゆくテーブル (ショートショート #原稿用紙二枚分の文芸賞)
彼女はリビングのテーブルに頬づえをつき、ぼんやり物思いにふけっている。愛菜は悩みを抱えていた。夫からモラハラを受けている。
健康にも影響があった。彼が家にいると具合が悪くなり、出張へ行くと元気になる。バタン、とドアが閉まる音で心臓がいつも跳ねた。
結婚して20年以上経つ。ずっと夫婦円満だと思っていた。けれど、数年前にある女性のSNS投稿がふと目に入る。夫に馬鹿にされたり、何か聞いても無視されたり、言うことを聞かないと罵倒されたりする、と。
それが自分にもほぼ当てはまることに気づき、思わず息をのんだ。気づかないうちにモラハラに遭っていたと衝撃を受ける。
それがきっかけで、夫の裕太に不信感を募らせていった。
ある日、下の子の発達のことで悩んで
「優美のことで相談があるの。週末に家族会議をしない?」
と言ってみる。けれど
「あの子には何も異常はない。だから話すことなんか何もない」
と顔を真っ赤にして怒り、夫は聞く耳を持とうとしなかった。
それ以来、彼女は彼との対話を諦めてしまう。意見を言っても、また怒鳴られるんじゃないかと体が震えた。嫌悪感も増し、触れられるのを無意識に避けはじめる。
ついに愛菜は別れたいと考えるようになった。けれど、結婚後は派遣の仕事を辞めて、資格も経験もほとんどない。40代後半で老いも近づいていた。離婚しても、子供を2人抱えた生活はかなり厳しい。
養育費をもらえるかもしれないが、中堅会社に勤める夫でも、十分ではないだろう。
それでも、自信をすり潰されながら残りの人生を過ごすのは、あまりに辛い。真っ当に生きて必死に子供を育てているのに。
どうして鼻で笑われたり、大した理由もなく見下され続けなければいけないのか。
だけど──独立と従属の間で揺れながら、今日も彼女は夜のリビングで1人過ごしている。
その時、鳩時計がのどかな声で時刻をしらせた。
了
花澤薫様の企画に参加させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
#原稿用紙二枚分の文芸賞
