死ぬ前にこの記憶をなくすかもしれない、けれど (#一言で表せない感動)
机に伏せっている私の頭に何かが触れて、それが滑った。それが何度か繰り返され、その後、背中に移ってそこを撫でた。
誰かに撫でられていると気づいて、私の中にフワッ…と何とも言えない感情が生まれた。
最近の事だが、ある日私はダイニングでnoteなどをつらつら見ながら気分転換をしていた。そのうちに、仕事か家事の疲れを感じて眠くなってきた。
それで、テーブルに突っ伏して目を閉じて少し休むことにした。すぐに眠気が襲ってきて、半分うとうとしていた。
しばらくして、近くに居た長女が、長男か夫と何か話をしながら私の背中を撫でた。
その手の動きがとても優しくて、彼女が私のことをどう思っているかとか、私のことを気遣ってそうしてくれているのが伝わってきた。それを感じていると、今まで味わったことがないような感情があふれてくるのに気づいた。
その手の優しさは、まるでずっと日照り続きでカラカラに乾いていた大地に、待ち焦がれていた雨がしとしとと降ってきたかのようだった。
干からびていた心が、その優しさで潤っていく気がした。
小さい頃に頭を撫でてもらったことはあったと思う。けれど、かなり遠い昔のことだ。大人になってもうずいぶん経つので、最近はそんな機会もないに等しかった。
10年か20年ほど前、電車に乗っていたら具合が悪くなり、ホームでうずくまっていて、駅員さんが来てくれたことがあった。けれど、一切手や体に触れられなかった。
男性だったので、セクハラになるかもと配慮したのかもしれない。構内の休憩室へ案内してもらったが、しんどい状態のまま一人で歩くのは辛かったし、肩を貸してほしいと思った。
彼女の労りは、そんな記憶を忘れさせてくれるほど優しく、胸に染みた。
鬼滅の刃で、伊之助が炭治郎に優しい言葉をかけられたり、藤の館の老婆に労われたりして、ホワホワと心が温かくなったような、そんな心境だった。
長女は私の背中を何度も何度も撫でてくれ、幸せと言ってもいいような思いを味わった。
2、3分ほど経っただろうか。やがて彼女は手を離し、他のことを始めた。私はもっと撫でて欲しいと思ったが、そのまま顔を伏せていた。
「ありがとう、背中を撫でてくれて。嬉しかったよ」
と長女に後で言おうと思ったが、バタバタしていて言いそびれてしまった。
でも、近いうちにちゃんと伝えようと思う。そしてその優しさを、他の誰かにも分けてあげてくれたらと願っている。
了
