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言葉が溢れて(いつかの記録)



髪を伸ばしていると必ず枝毛ができる。先端がわかれていて、その髪をぴりぴりとゆっくり割いていくのが好きだ。髪の毛が道のようだ。分かれ道みたいだけれど、逆からみれば一本道になる。
凡庸さがとびちる。迸る。わたしの何がいけないのだろうか。鍋底の黒をゴシゴシと洗うこともやっているというのに。
もう何者になるかなんてやめたのに、故郷に戻るとわたしは途中なのだと思ってほしくなり、そのようにわたしの今をはぐらかす。
家族を失望させたくはない。わたしはまだ、希望の途中。

本を読んでいると電車が駅についた。本が揺れている。ふと斜め前をみて揺れを探すと白髪混じりの頭が揺れていた。その揺れが後ろの私の手元も揺らしていた。止まることなく揺れる。体ごとシートと一緒に。
酔いそうになり、本を手に持つと揺れは伝播しなくなり、読書に集中した。
しばらく読んでまだ前をみるとそのひとはまだ揺れていた。揺れなければならない身体、揺れなければ存在できないひと。揺らぎは伝播し、心が揺れる。
次の駅で降りようと立ち上がった彼は思った以上に立派なサラリーマンだった。


故郷は寂しい場所になった。
賑やかだけれどそこに夢はないといっているような、それをごまかしているような気配が以前よりも濃密に感じる。
わたしがそこをでたから故郷となった。
そこにいたらずっと寂しい。土地の寂しさに引っ張られて飲みに行くか、どうでもいい男と沿う。そこが暖かいと思えるひとは、ずっとそこに暮らすことができる。幼い頃から早くその街を出たかった。

今住んでいる街は、新しい風がふいている。とりわけあたたかくもないけど寂しくもない。そこがわたしの帰る場所になっていることに気づいて、少し嬉しい。
みんなハイライトみたいに鮮烈に現れては消える。けれどもわたしはいつもここにいる。わたしはいつもここにいてパチパチと現れる閃光にまぶしいと目を細める。わたしはいつも佇んで珈琲を淹れたりおしゃべりしたり事務作業をしたり家のベランダの死にそうなオクラに水をやったりする。


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