時空を超えて‥‥小説(世流寝狐8)
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「何時頃ですか」
合志は身を乗り出した。
「五時半すぎ」
「どんな感じの女ですか」
「あら違うわよ、男よ男」
「男?」
先ほど聞き込んだ木底の草履を履いた女を想像していた合志を、聞き込みの疲れと共に落胆が一瞬包んだ。
いや、先程とは状況が違う。見かけた場所がかなり遠い。何故コートの色まで、と冷静になって尋ねた。
「この辺り見ての通り物騒な感じがするでしょ、結構恐いこともあるのよ。そのせいかどうか分かんないけど、最近電燈が良くなったの、ほら、あそこ」
と指差す。確かに大きな電燈が見える。
「しかしこの路地からだと通りの視界は一メートル足らずですよね。男と女を見間違えたということは考えられませんか」
「それはね、あたしが通りに出た時は急いでいたんでしょ、もう見えなかったわよ。でも真黒いコートよ、普通男じゃないかしら」
内心合志は、女だって黒いコートを着ないこともないと思ったが、このママには丁寧に礼を言いながら、スナックを後にした。
路地を抜け、通りを歩いていると事件現場にさしかかった。立ち止まり考える。
木底の草履と黒いコートはどう考えても無理がある。つまりこのコートの人物が男であろうと女であろうと、同一人物では無いということだけは否定できない。さらにここで死んでいた被害者の男はコートどころか上着すら着ていなかった。もしコートまで身に着けていたら、あれほどの傷は受けなかったかも知れない。犯人がわざわざ上着とコート両方を持ち去ったのか?
いや、おそらく別人だろう――
その後これといった収穫はなく、足を棒にして署に戻ると、すでに八時を過ぎていた。他の署員は未だ戻っていなかった。合志は署員らの帰りを待っていた係長に、聞き込みの報告を済ませて机に頬杖をついて再び考える。
男、女、木底の草履、黒いコート、聞き込みで得られたのはこの四つだけだ。朝の五時から六時頃と言えばそう多くの人が行き来しているわけではない。朝早く仕入れの必要がある業者か早出の会社員、新聞配達員、もしくはジョガーなどであろう。ただ業者や新聞配達員が通りを歩いていく可能性は低い。仮に歩いていたとしても木底の草履や黒いコートは無いだろう。またジョガーにしても、当日雪は積もっていなかったが、この二月初旬の別府の海風は刺すように痛い、この時期にそんな様相で走るなど考えられない。やはり、黒いコートは男女どちらかの勤め人と考えるのが妥当だ――
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