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【尿道狭窄症の教科書 第23回】前立腺肥大症手術後に発生する尿道狭窄症 ~原因と頻度について~

こんにちは。防衛医科大学校病院の堀口明男です。

「尿道狭窄症の教科書」シリーズ、第22回まで尿道形成術の総論・各論、そして専門医への受診についてお伝えしてきました。今回からは新たなシリーズとして、尿道狭窄症の原因別解説をお届けします。

尿道狭窄症にはさまざまな原因がありますが、先進国では医原性(いわゆる「医療行為に伴う」)狭窄が主要な原因の一つとなっています。その中でも今回から取り上げるのが、前立腺肥大症(BPH)の経尿道的手術後に発生する尿道狭窄症です。

「排尿を改善するための手術を受けたのに、なぜ排尿が改善しないのか」——この疑問を抱える患者さんは少なくありません。今回はその背景にある疾患の概要・手術の種類・狭窄が起こるメカニズム・発生頻度について詳しく解説します。

前立腺肥大症とはどのような病気か

前立腺は膀胱の直下に位置し、尿道を取り囲むように存在する男性特有の臓器です。前立腺肥大症(BPH:Benign Prostatic Hyperplasia)とは、前立腺の内側(移行領域)の組織が過剰に増殖し、腫大した前立腺が尿道を圧迫することで様々な排尿障害を引き起こす疾患です。

主な症状としては、尿の勢いの低下・排尿に時間がかかる・排尿後の残尿感・頻尿・夜間頻尿などがあり、これらをまとめて下部尿路症状(LUTS)と呼びます。メカニズムは異なるものの、症状は尿道狭窄とよく似ています。

前立腺肥大症(左)と尿道狭窄症(右)

BPHは非常にポピュラーな疾患であり、60歳以上の男性の半数以上が何らかの影響を受けているとされています。加齢とともに有病率は上昇し、70代・80代ではさらに多くの男性が罹患します。

治療はまず薬物療法(αブロッカーや5α還元酵素阻害薬など)が第一選択となりますが、薬物療法に抵抗性を示す場合や、以下のような症状がある場合には外科的治療が選択されます。

  • 薬物療法でコントロールできない反復性の尿閉

  • 腎機能障害(水腎症など)

  • 膀胱結石の合併

  • 反復性の尿路感染症

  • 肉眼的血尿の持続

BPH手術の種類と特徴

前立腺肥大症に対する外科的治療にはいくつかの術式があり、前立腺の大きさや患者さんの状態・希望に応じて選択されます。

経尿道的前立腺切除術(TURP)

尿道から内視鏡を挿入し、電気メスで前立腺組織を少しずつ削り取る術式です。前立腺の大きさが80cc未満の小〜中等度の症例に対するゴールドスタンダードとして長年使用されてきました。使用する電流の種類によってモノポーラTURPとバイポーラTURPに分けられますが、現在はほとんどが生理食塩水を使用できるバイポーラTURPになっています。

レーザー核出術(HoLEPなど)

ホルミウムレーザーなどを用いて肥大した前立腺腺腫を周囲の被膜から丸ごと核出(くり抜き)する術式です。特に80cc以上の大きな前立腺の第一選択とされており、再手術率が低いことが特徴です。

レーザー蒸散術(PVP)

グリーンライトレーザーなどで前立腺組織を気化・蒸散させる術式です。出血リスクが低く、抗凝固薬を服用している患者さんに有利な術式として知られています。

低侵襲外科的治療

近年導入が進んでいる、より低侵襲な選択肢の総称です。

  • UroLift(経尿道的前立腺吊り上げ術): 前立腺を引き寄せて固定し、尿道を広げる

  • Rezum(水蒸気治療): 水蒸気で前立腺組織を壊死させて縮小させる

  • Aquablation(ロボット支援水流アブレーション): 高圧水流で前立腺組織を除去する

これらの手術はいずれも尿道の中に内視鏡を入れ、尿道の中から処置をおこなう経尿道的治療になります。BPH手術後に生じる尿道狭窄には、この内視鏡的による尿道への物理的なダメージが深く関与しています。

なぜ手術後に尿道が狭くなるのか:メカニズムと好発部位

BPH手術後に尿道狭窄が発生するメカニズムは、狭窄が起こる部位によって異なります。大きく「前部尿道(尿道海綿体に囲まれた部分)」と「後部尿道(膀胱頸部)」に分けて考える必要があります。

BPH手術後尿道狭窄の好発部位(①亀頭部、②陰茎根元部、③球部膜様部、④膀胱頸部)

前部尿道狭窄のメカニズムと好発部位

前部尿道の狭窄は主に、手術に使用する内視鏡器具が尿道を通過する際の機械的な損傷によって引き起こされます。具体的には、以下の様な機序が考えられます。

内視鏡挿入時の尿道のイメージ

内視鏡シースによる虚血・圧迫: BPH手術に使用する内視鏡のシース(外筒)は比較的太く、尿道粘膜が持続的に圧迫されて虚血状態に陥ります。この虚血が尿道海綿体の線維化を引き起こし、狭窄へと進展します。

潤滑剤の不足: 内視鏡の挿入・操作時に潤滑剤が不十分だと、尿道粘膜との摩擦が増大し、損傷のリスクが高まります。

手術時間の延長: 手術時間が長くなるほど、内視鏡シースによる尿道への圧迫・摩擦が積み重なり、損傷が大きくなります。

術後カテーテルの長期留置: 手術後に留置される尿道カテーテルも、長期間・太いサイズで留置されると尿道粘膜の虚血や炎症の原因となり、狭窄を引き起こすことがあります。

好発部位: 内視鏡シースが尿道壁と最も強く接触する部位に狭窄が生じやすく、外尿道口・舟状窩(亀頭部)・陰茎陰嚢移行部(陰茎の根元部分)・近位球部から膜様部が代表的な好発部位になります。これらの部位別の特徴と治療については今後詳しく解説します。

膀胱頸部狭窄のメカニズムと好発部位

膀胱頸部狭窄(Bladder neck stenosis, BNS)は前部尿道狭窄とは全く異なるメカニズムで発生します。前立腺組織の切除・蒸散・核出によって膀胱頸部周囲の組織が損傷し、その治癒過程で生じる瘢痕収縮が膀胱頸部を狭小化させます。

病変は膀胱頸部から前立腺全体に及ぶことが多く、前部尿道狭窄とは病態が根本的に異なります。このため診断・治療のアプローチも全く異なります。

注目すべきリスク因子は手術前の前立腺体積が小さいことです。前立腺が小さい(30〜40グラム程度)場合、切除する組織量に対して膀胱頸部周囲への侵襲が相対的に大きくなるため、BNSの発生リスクが有意に高まることが報告されています。その他、手術時に未治療の前立腺炎が合併していること、膀胱頸部の過剰な切除なども重要なリスク因子とされています。

どのくらいの頻度で尿道狭窄が起こるのか:術式別の発生率

BPH手術後の尿道狭窄は決して稀な合併症ではありません。報告によってばらつきはありますが、米国の大規模データベース研究では全体で約3~4%に発生することが示されています。

前部尿道狭窄の術式別発生率

術式別に見ると以下のとおりです。

  • TURP(バイポーラ): 約2%

  • HoLEP/ThuLEP: 約3%

  • PVP(グリーンライトレーザー): 約3%

  • Aquablation: 約2%

Aquablationで発生率が低いのは内視鏡シースの尿道通過時間が短く、尿道への直接的な機械的損傷が生じにくいことが理由かもしれません。今後の長期的な評価が必要でしょう。一方でTURPやHoLEPのような経尿道的手術では、内視鏡シースが比較的長時間にわたり尿道を通過する必要があるため、発生率はより高くなります。報告によって発生率にはバラツキがありますが、概ね両者同等の頻度になります。

膀胱頸部狭窄(BNS)の発生率

膀胱頸部狭窄の発生率は報告によって0.3〜9.2%と幅がありますが、ランダム化比較試験の最新メタアナリシスでは約3%に発生するとされています。

術式別では以下のとおりです。

  • TURP: 約3%

  • HoLEP: 約3%(TURPと同程度)

  • PVP: 約9%(やや高い傾向)

前部尿道狭窄ではHoLEPの方がTURPよりもやや発生率が低い傾向がある一方で、膀胱頸部狭窄に関しては術式によらず一定の頻度で発生することを示しています。

数字が示す重要なメッセージ

約3〜4%という尿道狭窄の発生率は一見低く見えるかもしれません。しかし日本で毎年行われるBPH手術の件数を考えると、決して無視できない頻度です。そして起こった場合の患者さんへの影響——改善しない排尿困難・繰り返すブジー処置・長期にわたる病気に悩む期間——は非常に大きく、術前に医師側からの入念な説明と患者さんのしっかりとした理解が必要なことを示しています。この点については次回(第24回)で詳しく取り上げます。

まとめ:前立腺肥大症術後尿道狭窄の原因と頻度

今回は前立腺肥大症(BPH)の経尿道的手術後に発生する尿道狭窄の原因と頻度について解説しました。

尿道狭窄の発生率は術式によって異なりますが全体で約3〜4%であり、決して稀な合併症ではありません。起こった場合の患者さんへの影響は非常に大きく、これだけの頻度と影響がある合併症であるにもかかわらず、医師からの術前説明と患者さんの理解が十分でないケースが多いように感じます。

次回の第24回では、医師側と患者側の尿道狭窄に対する認識の乖離について正面から取り上げます。「聞いていなかった」「こんなに長引くとは思わなかった」という患者さんの声が後を絶たない現実、そして患者さんが術前に知っておくべきことを解説します。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

防衛医科大学校病院 外傷・熱傷・事態対処医療センター 再建部門 教授
堀口 明男

▼当外来の詳細・診療実績はこちら
https://plaza.umin.ac.jp/strictureurethra/

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