ゆるしの愛とゆるさぬ愛 #8「願いを紡ぐ物語」――第3章:編み込まれた願いの物語
Laed:ユウ
📚マガジン:ゆるしの愛とゆるさぬ愛
完璧な正しさだけでは息が詰まる。
でたらめで泥臭い物語の余白にこそ、
民衆の本当の願いが編み込まれていた。
願いを紡ぐ物語
「先生、アラビアンナイトって、
イスラム教の教えなんですか?」
放課後の掃除の時間。
ホウキを持った生徒が、ふとそんなことを口にした。
「……実はあれ、
教えとは真逆の『本音』から生まれたのよ」
私は黒板消しの粉を払いながら、ポケットの中の『銀のインク壺』にそっと触れた。
「お堅い神学や理屈が救えなかった人々の心を、
でたらめな物語が救っていたの」
私は目を閉じ、カルダモンとクミン、そして汗の匂いが入り混じる熱狂の夜へとダイブした。
八世紀の終わり。アッバース朝の都、バグダード。
「知恵の館」での仕事を終えた翻訳家ファーリスは、静寂に包まれた回廊を抜け、街の市場(バザール)へと足を踏み入れていた。
一歩その領域に入ると、むせ返るような熱気と騒音が全身を打ち据える。
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