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EP5.3:物語は世界へ、民族は流浪へ――アレクサンドリア(エジプト) ft.サエコ

音のある方へ
MC:サエコ

「初めに言(ロゴス)があった。」

―― ヨハネによる福音書 1章1節

アレクサンドリアの、古い教会の地下室。

ひんやりとした湿気が、石の壁に染み込み、
空気そのものを重くしている。

地上では、クラクションや人の話し声が、
波のように折り重なっているはずなのに、
ここには、長い時間をかけて堆積した
沈黙の層がある。

私はその沈黙の底で、かすかな音を探している。
パピルスの上を滑る、葦のペンの音。
乾いた、ほとんど聞き取れない摩擦音。
かつてこの場所で、言葉が、爆発した。

アブラハムの子孫たちが
砂漠で聞いたという
あの剥き出しの「声」は、
ここで、ギリシャの洗練された
「論理(ロゴス)」と出会い、
別の姿を与えられた。

喉を鳴らすようなヘブライ語の響きが、
滑らかで、誰にでも届く
ギリシャ語へと書き換えられていく。

それは、神が特定の民族の守護者であることを
やめる瞬間だったのかもしれない。

世界を貫く「理(ことわり)」として、
すべての人間を等しく照らす光として、
神は、翻訳された。

「僕」という個別で、どうしようもなく
不完全な物語が、誰にでも通じる「私」という
言葉に置き換えられるとき。

そこには、失われるものと、
確かに、得られるものがある。

その境界線で、新しい祈りの形が、
静かに、産声を上げようとしていた。

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