EP3:世界で最も愛されたツインテール――カナン(パレスチナ西岸) ft.サエコ
音のある方へ
MC:サエコ
「主はアブラムに言われた。
『あなたの目を上げなさい。あなたが今いる場所から、北と南、東と西を見渡しなさい』」
乾いた、あまりに乾いた風が吹き抜けていく…。
一歩…また一歩と、歩を進めるたび、硬い石を噛む音が沈黙の荒野に刻まれていく。
かつてアブラハムという名の男が、声に従い、四方を見渡した場所。
あの日、彼が視線でなぞった地平線は、いつからこれほどまでに鋭利な刃物へと変わってしまったのでしょうか。
今、そこにある景色はアブラハムの旅が、望んだ未来を描くことは
なかった事を物語っている。
目の前に立ちはだかる高さ数メートルのコンクリートの壁…
検問所のゲートが閉まる、冷たい金属音。
壁に描かれた色鮮やかなグラフィティは、向こう側を視界から消し去るための、必死な祈りのようにも見えます。
銀色の葉を震わせるオリーブの老木だけが、どちらの側にも属さぬまま、千年の孤独を耐えていました。
約束とは…祝福とは…
……
……………
この地は、二人の導き手が長い時を経てたどり着いた、約束の地。
けれどその旅は、神託に導かれ、
民に安寧を約束する穏やかなものとは言えませんでした。
彼らが求めたささやかな暮らしは、
行く先々で定着することを許されず、
果てしない流転を強いられる、苦しい旅の連続。
だからこそ、人々は求めたのではないでしょうか。
神という絶対的な存在を。
そして、明日を繋ぐための奇跡を。
土地を持たない彼らだからこそ、
愛し合い、助け合うことで、
絶望とも思える時を世代を超えて乗り越え、
ようやくこの地に辿り着いたのです。
……………
……
しかし、ようやく辿り着いたこの場所で待ち受けていたのは、
新たな火種でした。
人々はアブラハムの軌跡を、
モーセの奇跡を、
それぞれが物語にして音を奏で続けています。
この地こそが、約束された私たちの土地なのだと。
分かたれたまま背後へと長く、長く引きずられていく、
二つの物語の尾。
あまりに長く、美しく、
そして残酷なその「二つの物語」を、
人々は聖典と呼び、愛を説き、
自らの存在を示し続けているのです。
その結び目のきつさに、
今もこの大地が息を詰まらせていることも知らずに。
ここから先は
少しでも”考えるきっかけ”になる記事を投稿していきます。気に入って頂けましたら応援よろしくお願いします。
