その迷いは地図を作る―― 失われたユニーク 4Days/3Day
失われたユニーク
MC: アイ、サエコ
迷うことすら許されないこの街は、
どこまで歩いても同じ景色が続いて、息が詰まる。
だからこそ私は、地図にない路地へ足を踏み入れるの.。
アイの視点
―― 均質なジェネリック・シティ
アイ:
サエコ、回線の状態はどう?
映像が少し乱れているけれど。
サエコ:
ええ、路地に入ると少し電波が不安定になるみたい。
でも、アイちゃんの声は聞こえているわ。
アイ:
じゃぁ、このまま続けましょう。
今、手元でスマートフォンの画面を見ているわ。
地図アプリに引かれた青い線が、目的地までの最短ルートを無機質に示している。
到着予想時刻、乗り換えのタイミング、道の混雑状況。
すべてがアルゴリズムによって完璧に最適化されている。
顔を上げると、駅前には同じロゴを掲げたシアトル系のカフェがあり、傷ひとつないガラス張りの真新しい商業ビルが空を反射しているわ。
サエコ:
……どこにでもありそうな景色ね。
それにしても、便利になったわよね。
アイ:
私たちはもう、街角で地図を広げて立ち止まることも、道に迷って途方に暮れることもなくなった。
かつてその土地にしかなかった不規則な路地や非効率な個人店は、再開発という名のアップデートによって、安全で清潔な空間へと書き換えられていく。
無駄がなく、誰もが快適に過ごせるジェネリックな都市。
それは人類が不確実なリスクを排除し、自ら望んで手に入れた、完璧な退屈さなの。
【解説:ジェネリック・シティと非場所】
建築家レム・コールハースは、独自のアイデンティティを捨て、世界中どこも同じような高層ビルとインフラで構成された都市をジェネリック・シティと呼んだ。
また、人類学者マルク・オジェは、空港やモールなど、歴史の痕跡を持たない均質な空間を非場所(Non-places)と定義した。
日本語で場所とは本来「土地そのもの」を指すが、この「非場所」という言葉が意図するのは、個人の記憶や人間関係が蓄積されない、いわば「誰のものでもない空間」のことである。
現代の都市開発とアルゴリズムの最適化は、世界をこのコピーされたような匿名性の空間で埋め尽くそうとしている。
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