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EP5.1:水車の音だけがある景色―― エジプト(ナイル川流域) ft.サエコ

音のある方へ
MC:サエコ

「彼らはそこで増え広がり、
 その地は彼らで満ちた。」

―― 出エジプト記 1章7節

カナンから続く乾いた土の記憶が、
この泥の匂いにかき消されていく。

私は今、カイロから南へ下った、
緑の帯が広がる農村に立っている。

見渡す限りの緑。
カナンの岩だらけの荒野を歩いてきた足裏には、
この湿った、吸い付くような黒土の感触が
ひどく官能的に感じられる。

アブラハムの子孫たちも、
同じようにこの湿り気に驚いたはずだ。

約束の地を離れ、飢えから逃れ、
ようやく辿り着いた、
この命を全肯定するような水の都。

「ギギィ……」

水路に置かれた古い揚水水車が、
今も、数千年前の拍動を刻んでいる。

それは、
彼らがこの地で
「安住」という名の「停滞」を
選んだ時に聞いた音。

空を見上げれば、
あのシナイの厳しい星空ではなく、
すべてを等しく焼き尽くし、
そして等しく育む、
絶対的な太陽が君臨している。

ここでは、
祈る必要さえないのかもしれない。

水は決まった時に溢れ、
土は黙っていても実りをもたらす。

それは救いであり、
同時に、
神との鋭い対話を鈍らせる
「心地よい檻」だ。

遠くで、
土を掘り返すクワの音と、
家畜を追う少年の声が聞こえる。

その平穏な音の中に、
やがて来る「叫び」の予感が、
夕刻の長い影のように、
静かに忍び寄っているのがわかる。

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