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音のある方へ EP0-2:石畳の足音に呼ばれて――エジプト・イントロダクション ft.サエコ

音のある方へ
MC:サエコ

「すべてのものには時がある。
 天の下の出来事には、すべて定められた時がある。」

――伝道の書 3章1節


ナイルのデルタに沈む夕日は、

この世のすべての色を飲み込んでしまうほどに、重く、赤い。

私は、アレクサンドリアの古いテラスで、
使い古したノートを閉じ、
最後の一杯のティーを飲み干す。

ウルから始まった「彼ら」の放浪。

カナンで土を噛み、
シナイで星空と契約を交わしたあの熱い物語は、
このエジプトという巨大な豊穣の沈黙の中に、
一度、静かに埋葬されたのだと思う。

「ギギィ……」

遠くで聞こえる水車の音。

それは、数千年間変わることのないエジプトの呼吸。
同じ季節、同じ収穫、同じ祈り。

この国は、円環の中で完璧に世界を回し続けてきた。
けれど、その反復される「円環」の外側から、
今までとは違う、冷たく鋭い風が吹き始めているのを、
私は確かに感じていた。

かつて「僕」と自称し、
境界線を求めて彷徨った私は、
この土地で、ひとつの大きな区切りを見つけた。

信じることは、留まることではない。

変わりゆく自分を、
変わりゆく世界に委ね続けること。

港には、巨大なローマの穀物船が列をなしている。

それは、祈りの時代が終わり、

すべてが「法」と「計算」で測られる、
巨大なシステムの時代が来るという予兆だった。

私は、もう一度靴紐を締め直す。

次は、石畳の音が支配する、あの帝国の中心へ。
あるいは、その重力から逃れようとする、
北の暗い森の方へ。

ここで、凪は終わる。

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