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EP12:許しのコインと祈りの槌 ―― ヴィッテンベルク ft.サエコ

音のある方へ
MC:サエコ

私はここに立つ。
これ以外に、私にできることはない。

―― マルティン・ルター

ベルリンからの列車を降りたとき、
不思議なほど街は静かでした。

冷たい風がコートの裾を揺らすたび、
なぜか、頬を何かが伝っているような錯覚を覚える……。


ここは、かつて何かが決定的に壊れた場所。


でもそれは過去の歴史……
そのはずなのに、石畳を歩く人々の足音も、
遠くで鳴る鐘の音も、ひどく寂しげに聞こえてしまう。


気付くと城教会の前に立ち、
今はブロンズに変わってしまった重い扉を見上げていました。
冷たい金属の凹凸にそっと指を這わせる――
目に映る景色から色が消え――
どこからか古い鐘の音が――
胸に響いてくる。


冷たい雨の匂いが、
私の意識をその場にとどめる。

石畳はぬかるみ、
すり切れた服を着た農民たちが、うつむき加減で列を作ってる。

節くれだった荒い手が握りしめる、なけなしの銀貨。
それが木箱の底へ落ちる、チャリンという無機質で乾いた音。


彼らがすがるように受け取る一枚の紙切れ。

その瞳を支配しているのは、神への愛や祈りではなく、
ただ、死後の地獄に落ちることへの生々しい「怯え」。

巨大な石の教会は、何も語らないまま、
人々の恐怖を帯びたその光景をただ受け入れていた。


その光景を、
絶望に近い眼差しで見つめる一人の男――
マルティン・ルター。


震える手でハンマーを握る彼の背中は、
野心的な革命家というよりも、
ただ怯えた一人の信徒にしか見えなかった。


「コンッ」

冷たい雨音を引き裂いて、
くぐもった木の音が響く。

彼は、重い扉に文書を打ち付けた。

それは大衆を煽る咆哮ではなく、
巨大な聖なる権力を間に挟まず、
ただ一人で神と向き合いたいと願った、
絶望的なまでに純粋な「個の祈り」。

あまりにも小さく、
泣きたくなるほど孤独な、
ひとつの音が雨音にかき消されながら…

でも、確かに響いていた。

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