EP1:不確実な光を求めて――ウル/ハラン ft.サエコ
音のある方へ
MC:サエコ
「あなたは、あなたの生まれ故郷、あなたの親族、あなたの父の家を離れて、私が示す地へ行きなさい。」(創世記 12:1)
暗転した意識の底で、その古い呼び声が、乾いた風と共に耳を掠めていきました。
イラク南部、ウルのジッグラト
見上げるほどに巨大な赤茶色のレンガの壁は、指先で触れると、日差しを溜め込んでじりじりと熱を帯びていました。
かつてここには、完璧なまでの秩序がありました。
緻密に計算された灌漑運河、整然と刻まれた楔形文字。
そこにあるのは、完成された文明だけが持つ、逃げ場のないほどの「重苦しい静寂」です。
ふと、私のサンダルが、砂に埋もれた石畳の端を削りました。 カリッ、という硬い音が、湿度のない空気の中に吸い込まれていきます。
なぜ、彼らはここを捨てたのでしょうか。
不自由のない「家」を離れ、名前も知らぬ荒野へ踏み出す。
それは信仰というより、もっと根源的な、自分を更新するための「不確実な風」への誘惑だったのではないかと、今の私には思えるのです。
ウルから北へ、トルコのハランを目指す道中。
風景は次第に色を失い、細かい砂が喉の奥をザラつかせます。
かつて「僕」と自称し、空を飛んでいた頃の私が、遠い記憶の地層から今の「私」を見つめているような気がします。
あの頃の私は、快適な座席を選び、この足の裏に伝わる確かな痛みを感じる事はなかったかもしれません。
ハランを抜ける風
そこにウルのような威圧的な壁はありませんでした。
あるのは、東西から吹き抜ける風と、交易を待つ人々の喧騒が、熱い土の匂いに混ざり合う気配だけ。
アブラハムは、最初の「リスクテーカー」でした。
安定という重力から解き放たれ、不確実な未来へと足音を重ねていった一人の旅人。
沈みゆく夕日がハランの街を赤く染め、私の影を長く、長く、土埃の上に伸ばしていきました。
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