Case #12:クロスオーバー ――暗闇の交差点
Case Files――暗闇の交差点
Lead:アイ
12月12日 08:30(現地時間)|私の中の私
サンルウルファのホテル(日本時間 14:30)
ギョベクリ・テペ。
あの石の前に立ったときの、空気。乾いているのに、冷たくない風。人の声が吸い込まれていくような沈黙。
「ここでは、言葉が遅れて届く」
そう感じたことを、思い出す。
論理も、説明も、意味もない。
ただ――“何かが始まる前の場所”。
文明より前。祈りより前。
人が、まだ「分かる」ことを諦めていなかった頃の痕跡。
あの場所なら、間に合う気がした。
何に、かは分からない。けれど、今いるべき場所は「そこ」だと感じていた。
サエコはバッグを開き、静かにノートを取り出した。
ページの端に、無意識に書きつける。
――ギョベクリ・テペ。
ペン先が止まった瞬間、遠くで風が少しだけ強く吹いた。
時間は、奇跡のように揃ったのではない。
ただ彼女が、そこへ向かう選択を、遅らせなかっただけだった。
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