Case #11:ダンサブル・アクター――暗闇の交差点 ft.アイ
Case Files――暗闇の交差点
Lead:アイ
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12月12日 18:30|アンサーチェック
帝都大学裏・古びた喫茶店
店内には、午後からずっと流れ続けているであろう古いジャズが、埃をかぶった音で鳴っていた。
客は、いない。
それが偶然なのか、それとも――と、アイは一瞬だけ考え、思考を切り上げた。
「いいですか、アイさん」
A氏は、テーブルの上に黒いケースを静かに置いた。
中に入っているのは、最新のタブレットではない。
スタジオ近くの個人商店から、昔のつてで借り受けてきた、古い防犯カメラのバックアップ・ユニットだった。
「これは『魔法』でも『幽霊』でもない。
純粋な……システム上のバグです」
そう前置きしながらも、A氏の声には、どこか自分自身に言い聞かせるような硬さがあった。
「大学内のクラウド型カメラは、
すべてNOXの検閲下にある。
ユウさんの姿は、
リアルタイムで“ノイズ”として処理され、
記録そのものが残らない」
アイは黙って頷く。
それは、アイが辿り着いた仮説と一致していた。
「……だが」
A氏は一拍、間を置いた。
「街角の、ネットワークに繋がっていない
この安物のHDDは違った。
補正も、解析も、クラウド同期もない。
ただ、光を受けて、磁気に刻むだけの機械だ」
再生ボタンが押される。
画面が一瞬、歪み――
そして映し出された。
学食で、一人、トレイを前に座るユウ。
銭湯の暖簾をくぐる、少し猫背の後ろ姿。
スタジオ周辺を彷徨い、何かを探すように振り返る横顔。
どれも、見覚えのある彼女だった。
あまりにも、日常の中のユウだった。
アイは、
気づかぬうちにモニターに手を伸ばしていた。
指先が、冷たいガラスに触れる。
「……チャンネル理論は、
人の“意識”を書き換えることはできる。
だが、少なくともこの旧式の光学系と、
直書きHDDに対しては……
完全には及ばなかったらしい」
A氏は淡々と続ける。
「彼女は、ずっとそこにいた。
誰も、彼女を“見ようとしなかった”だけで」
アイの中で、
散らばっていたピースが、音もなく噛み合った。
本庄智慧が作り上げた「全知」とは、世界を知る装置ではない。
不都合な真実を、最初から“見えないもの”にする巨大なフィルターだ。
(……引き戻すには)
アイは確信する。
ユウを「あちら側」から引き戻すには、
デジタルなネットワークの外側にある、この物理的な感触が必要なのだ。
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