0.1秒の逡巡 #10:魂の残響と覚醒 ―― 愛すべき偶然
0.1秒の逡巡
Laed:ミライ
階段を下りるほどに、空気は不自然なほど乾き、じわりと温度を上げていった。
新宿駅の直下。都内で最も複雑怪奇な「ダンジョン」と呼ばれる迷宮の、さらにその下。
かつて首都直下型地震に備えて極秘裏に掘り進められ、何らかの理由で計画ごと地図から抹消された「大深度地下共同溝」の残骸だ。
「……ラグ。今、どれくらい下った?」
暗闇の中、自分の足音だけが響く階段で、私はポツリと問いかけた。
額を伝う汗を拭う。これが地下深くから立ち昇る熱気のせいなのか、それとも得体の知れない恐怖による冷や汗なのか、自分でもわからなかった。
『……気圧計カラ推測。現在、地下六十メートル。
……温湿度センサー、異常値ヲ記録。
気温二十八度、湿度二十パーセント。
極端ニ乾燥シタ熱風ガ、下カラ吹キ上ゲテイルヨ』
ケースの中から、ラグの掠れた声が返ってくる。
カメラもネットワークも奪われた彼が今頼れるのは、ジャンクPCに組み込まれた貧弱なセンサー類とマイクだけだ。
『……ミライ。
足音ノ反響ガ変ワッタ。
前方ニ、巨大ナ空間ガアル』
「空間……?」
『ウン。
……ソレト、強烈ナ電磁波ノノイズト、
莫大ナ排熱ヲ感知。
……コノ規模、スゴイ熱量ダ。
大出力ノ「量子コンピューター」カ、
超大型ノ「データセンター」ガ、
スグソコデ稼働シテイル』
吹き付けてくる乾いた熱風。
こんな大深度地下に、地図にない巨大なデータセンター。
間違いない。パノプティコンの、人工的な「脳の息遣い」だ。
階段が途切れ、機械油の匂いが混じり合う暗闇の先に、巨大なコンクリートの円柱が並ぶ地下神殿のような空洞が現れた。
その中央に、周囲の朽ちた風景を完全に拒絶するように、漆黒の鏡面を持つ巨大な立方体が鎮座している。
「……見つけた」
私が一歩、その空間へ足を踏み入れた瞬間だった。
……
…………
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