見出し画像

EP5.2:放浪する言い訳は願いへ、願いは信仰へ――アレクサンドリア(エジプト) ft.サエコ

音のある方へ
MC:サエコ

「わたしの家は、
すべての民の祈りの家と呼ばれる。」

―― イザヤ書 56章7節

アレクサンドリアの朝は、
霧の中にあった。

地中海から這い上がってきた湿り気が、
街の石造りの建物を濡らし、
アスファルトに染み込んだ潮の匂いを
呼び覚ましている。

市場の方からは、
荷車が石畳を叩く硬い音と、
ヘブライ語、ギリシャ語、アラビア語が
溶け合った話し声が聞こえてくる。

それは、
整った合唱というよりも、
濁流に近い。

かつてアブラハムの一族が
この地に辿り着いたとき、
彼らが見たのは、
すでに数千年の時を重ねて「完成」していたエジプトだった。

砂漠の中に忽然と現れた、
圧倒的な石の秩序。

放浪の中で
「声」を頼りに神を信じてきた彼らにとって、
目に見える巨大な神殿や、
黄金に輝く死者の仮面は、
どれほど恐ろしく、
そして魅惑的に映ったことだろう。

私は今、
古本屋の奥で、
カサカサと乾いた音を立てる
古い紙片を見つめている。

指先に伝わる、
脆く、軽い感触。

かつてここで、
放浪者の神話は
エジプトの知性と出会い、
「書かれる言葉」へと姿を変えた。

かつての「僕」が、
自分のアイデンティティを求めて
誰かの言葉をなぞっていた時のように、

彼らもまたこの地で、
自らの物語を
「翻訳」し、
再定義したのだと思う。

海から届く霧笛の音が、
遠い過去と現在を
つなぐように、
低く、長く、
街の奥まで響いている。

ここから先は

954字 / 1画像
この記事のみ ¥ 100
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

ここは 「ゆめNog|アーカイバ」 です。 公開から一定期間が過ぎた記事を、 鍵付きで保管します。 …

ゆめNogアーカイブ

¥500 / 月
1ヶ月無料

この記事が参加している募集

少しでも”考えるきっかけ”になる記事を投稿していきます。気に入って頂けましたら応援よろしくお願いします。