AIに聞けること、入力してよいこと、実行してよいこと
自治体でも、職場で使うことができるAIが導入されてきました。
その一方で、自由度が低いなと感じたことはありませんか。
特に、プライベートでAIを使っている方ほど、できることの差にストレスを感じているかもしれません。
ただ、AIを「文書作成しかできないもの」と考えてしまうと、可能性を狭めてしまうとも感じています。
1. ファイルを探すことにも、AIの出番がある
仕事で、過去のファイルを探したいと思うことがあります。
ファイル名の一部は覚えている。
拡張子も、WordかPDFあたりだと見当がついている。
でも、どのフォルダに入っているかが探し当てられない。
画面上の検索で探そうとすると、共有フォルダが多すぎたり、検索条件の絞り込みが難しかったりして、ファイルを探したいだけで1時間浪費することもあります。
そういうとき、AIに聞くと、コマンドプロンプトで使える検索コマンドを作ってくれます。
たとえば、
「ファイル名にこの文字を含む、拡張子がWordかPDFのファイルを探したい」
「このフォルダの中を検索したい」
「結果を一覧で出したい」
そう頼めば、AIはコマンドプロンプトに入力できる命令文を作成してくれます。
それを使えば、普通の検索より素早く、細かな条件で探せることがあります。
チャットだけでも、できることは案外多いのです。
もちろん、AIが作った命令文をそのまま実行してよいわけではありません。
まずは「探す」「一覧にする」程度の、変更を伴わない操作に限って考えるのが安全です。
2. コマンドプロンプトは、食券機に近い
コマンドプロンプト、またはターミナルという言葉に、なじみがない人もいると思います。
普通にパソコンを使っているだけだと、情報部門の人が何か作業しているときに、黒い画面がついたり消えたりするもの、くらいの理解かもしれません。
普通のパソコン操作は、たとえるなら、店員さんが注文を取りに来てくれる食堂に近いです。
画面にボタンやメニューが用意されていて、こちらはそれを選ぶ方式です。
保存しますか。
開きますか。
削除しますか。
パソコン側が、ある程度こちらに問いかけてくれます。
一方、コマンドプロンプトは、食券機に近いです。
パソコン側の言葉に合わせたコマンドを、こちらが文字で入力する。
正しく入力できれば、普通のパソコン操作より数段速いです。
ファイルを探したり、一覧で出したり、同じ処理をまとめて行ったりできます。
ただし、便利な一方で、押し間違えたときの影響も大きくなります。
普段の画面操作では、「本当に削除しますか」「上書きしますか」と確認してくれる場面があります。
しかし、コマンドでは、命令の書き方によっては、その確認を挟まずに処理が進むことがあります。
食券機でたとえるなら、押したものがそのまま注文として通るようなものです。
100人前の注文や、体を壊すレベルの激辛料理も、ボタンさえ押せば注文できてしまう。
「この条件に合うファイルを探して」くらいなら便利です。
しかし、命令の内容によっては、「移動して」「書き換えて」「削除して」もできてしまいます。
AIは、その食券機の押し方を横から教えてくれる存在に近いです。
しかし、押し方が分かることと、注文できるものをすべて注文してよいことは、また別問題です。
3. AIに聞けることと、職場でやってよいことには差がある
AIにコマンドを作ってもらうこと自体はできます。
しかし、そのコマンドを職場のパソコンで実行してよいかどうかは、また別の問題です。
これは公務員に限った話ではありません。
民間企業でも、パソコン内のデータを複数人で共有している時点で、勝手にファイルを読んだり、変更を加えたりすると、他の共有者や情報管理部門に迷惑がかかることは容易に想像できます。
ファイルを探すだけなら、比較的安全に見えます。
一方で、AIが、
「Pythonを使えばできます」
「このスクリプトを実行してください」
「外部ライブラリを入れてください」
と提案してきたとします。
これを、果たして思考停止して受け入れてよいものでしょうか。
情報部門が管理している端末には、端末管理のルールがあります。
勝手にソフトを入れない。
許可されていないコードを実行しない。
共有フォルダ内のファイルを一括で書き換えない。
技術的には可能であることと、実務でやってよいことは、必ずしもイコールにはなりません。
4. 何でもAIに入力してよいわけではない
もう一つの問題は、AIに何を入力するかです。
職場でAIが導入されたとしても、業務上の情報を何でも入力してよいわけではありません。
たとえAIがプロンプトの内容を学習しない設定になっていたとしても、外部にAIのサーバーがある以上、外部に情報を送るという意識は必要です。
個人情報。
個別案件。
組み合わせると個人が特定できる情報。
未公表の資料。
内部でしか共有されていない資料。
こうしたものを、そのまま入力するのは危険です。
守秘義務を守ることは、AIを一切使わないことではありません。
ただし、何を出してはいけないか考えずに使うことでもありません。
個人情報は入力しない。
個別案件はそのまま相談しない。
未公表の資料は貼り付けない。
これは入口としては正しいです。
ただ、現場で本当に知りたいのは、その次ではないでしょうか。
名前をAさんに変えたらよいのか。
部署名を伏せればよいのか。
金額を丸めればよいのか。
実際のCSVではなく、列の構造だけならよいのか。
文書そのものではなく、確認すべき観点だけなら聞いてよいのか。
ここを考えないままだと、AIを安全に使うことが難しくなります。
AIに相談するときは、いきなり原文を貼るのではなく、まず情報を削ります。
次に、業務の構造だけを残します。
それでも特定につながりそうな日付、金額、部署名、地域名などは、必要に応じて丸めます。
ただの置き換えだけでは安心できません。
名前を伏せても、日付、金額、地域、部署、事案の組み合わせで分かることがあるからです。
だから、相談に不要な情報を削り、数字や時期を丸め、原文ではなく処理の構造だけを出す必要があります。
そのまま渡すのではなく、相談できる形まで情報を整える。
この一手間が、AIを安全に使うためには必要になります。
これは、新聞記者や編集者が、個人や案件が特定されないように情報を整える技術にも近いものだと思います。
AIを使う職員一人ひとりに、こうした感覚が必要になってくるのかもしれません。
さらに安全側に寄せるなら、原文や実データを渡さず、内部で処理を完結できるように、確認観点や考え方のフレームワークだけを作ってもらう方法もあります。
5. 初心者研修では、慎重寄りに教えるしかない
AI研修の入口では、おそらく慎重寄りに教えることになります。
個人情報は入力しないこと。
未公開情報は貼り付けないこと。
個別案件をそのまま相談しないこと。
判断に迷ったら、いったん止めること。
これは正しいです。
最初から細かい例外や判断基準を説明しすぎると、初心者は「何かよく分からない、難しいもの」として耳を閉ざしてしまいます。
事故を防ぎつつ、最初の一歩を踏み出してもらうには、まずは分かりやすい赤信号が必要です。
ただし、それだけで話が終わると、今度は別の問題が起きます。
怖いから何も使わない。
何が安全か分からないから、研修で言われた例のリピートに終始する。
公開情報を使った文書整理まで避けてしまう。
これでは、AIを導入しても活用まではおぼつきません。
6. 必要なのは、境界線を見定めること
大事なのは、活用のラインや個人情報のラインぎりぎりを攻めることではありません。
ラインを踏まないように、どこにラインが引かれているかを見定めることです。
AIに聞けること。
AIに入力してよいこと。
AIが作ったものを職場で実行してよいこと。
この三つは、分けて考えるべきです。
聞くこと自体は可能。
しかし、入力できない情報がある。
作ってもらうこと自体は可能。
しかし、職場で実行すると危険な操作がある。
AIを使っていけばいくほど、「できること」と「やってよいこと」の距離は縮まっていきます。
だからこそ、なおさらこの観点が重要になります。
守秘義務を守ることと、何も考えずに黙ることは違います。
AIを安全に使うことと、何もかも入力することも違います。
法令やルールは、動かないためだけにあるのではありません。
安全に動くためにも、法令やルールが必要になるのです。
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