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【ブラックユーモア】ミイラと洗浄屋(5分小説)

※最後に解説つき

#創作大賞2025 #オールカテゴリ部門

ミイラ少年は不潔に思われていた。だが実際、ミイラ少年は綺麗好きな不潔だった。清潔になれないのは包帯のせいだ。包帯をしていれば汗をかくし、汗をかけばそりゃ臭くもなる。それが包帯に染み付き、不潔になるのだ。

ミイラ少年は決意した。清潔になろう。この包帯を清潔にするまでは決して故郷には帰らない。

ミイラ少年と言えど初めからミイラだったわけではない。ミイラになる前は洗浄屋だった。どんな仕事かというと、動物や車、家などなんでも綺麗に洗うという仕事だ。


少年はある日父親から、村1番の豪邸で飼われているブタを洗ってこいと言われた。
豪邸に着き、呼び鈴を鳴らすと、サングラスをかけ、ピンク色のスーツを身にまとった女性が出てきた。歳は50くらいで、紳士的な言葉選びをすると、丸みを帯びて掴みがいのある、非常時には飲まず食わずでも長らく生きられそうな体型をしていた。

少年は嘆いた。
「お父さん、あんまりだ。あなたが酷い人だってことは分かっていた。子供に働かせて自分はビールでできた腹を見て、本気で次の従業員となる子供ができると信じているくらい馬鹿でろくでもない人だ。だからって、少年の僕にこんなオバさんの身体を洗えだなんて! 僕にだってプライドがあるぞ!」

ピンク色のスーツを着たマダムは淡々と言った。
「失礼ねあんた。ブタはあっちの小屋にいるわ。あの人にしてこの子あり。別れて良かったわ。え? そうよ、私はあなたの母親よ」

少年はその言葉を聞いて感極まり涙が溢れ出てきた。ピンクスーツの下を見ずに済んだからだ。

少年はすぐさまブタ小屋に向かった。
「母の愛を知らない子は、複雑ね」
ピンクスーツの女性は煙草をふかして興味なさそうに言い捨てた。

少年はブタを洗い始めた。
「かわいそうに。君ももう幾ばくの命か。君を食べられない僕もかわいそうだ」
「おい! 勝手に殺すなよ! 貴様!」
どこからか甲高い声がした。おそらく今、少年におしりを洗われているピンクがきついブタの方からだ。

「おい、しっかり、洗いやがれ! 俺様のプリプリのおしりが台無しだろ!」
少年は思った。世の中には知らないことがまだ沢山ある。豪邸の主人が人の形をしたブタだったり、そのブタは自分の母親だったり。目の前のブタのおしりは禿げてツルツルだったり。もしかしたら本当にお父さんはビール腹から子供を産めるかもしれない!

「ブタは綺麗好きなんだ。同じ雑巾で洗うな。そこにある使い捨ての包帯を使え! 思春期のブタはデリケートなんだぞ!」

そこにピンクスーツのマダムがやって来た。
「まだかしら。おなかぺこぺこよ」
「あ、マミー! 今日のご飯なに?」
おしりの禿げたブタはピンクスーツにすり寄って短い尻尾をふりふりしている。

「なに? このブタ。ブヒブヒやかましいわね。こんなおしりの禿げたブタ、なにかの病気にかかっているのかしら? 食べられないじゃない」
どうやらピンクスーツにはブタの言葉は分からないらしい。

少年は思った。
ブタと人間の合いの子である自分にはブタの言葉が理解できて、ブタであるお母さんには何故ブタの言葉が理解できないのか。

そこでピンクスーツに訊くことにした。訊くは1時の恥だ。

「恐れながら、あなた本当にブタですか?」
少年とおしりの禿げたブタは外にツマミ出された。

「マミーなんでよ、なんでよマミー!」
ブタの言葉は虚しくブタの言葉としてしかピンクスーツに届かなかった。


おしりの禿げたブタの人生はそれから悲惨だった。
ぷりぷりのおしりを気持ち悪い、食えそうにない、と見る人半分。美味しそうと見る人半分。
つまり人々はブタを食用としてしか見ていなかった。

少年だけは違った。少年は毎日、使い捨ての包帯でブタを洗い、ブタの愚痴を聴き、ブタを労った。
ブタに洗浄屋のいろはを教えたりもした。
会得できる見込みはなかったが、自分が偉い先輩になった気持ちになれて気分が良かった。でも、それ以上に「ストレスでそれ以上禿げるなよ」と優しい声をかけた。

誰にどう売れば高値で売れるのか、つまり商売の品として見ていたからだ。
おしりだけが禿げているのだから珍しいのであって、他まで禿げられたら商品価値は下がる。

ブタは少年に対して申し訳ない気持ちになっていた。こんなに毎日良くしてもらって。自分は甘えていた。いかに今まで世間知らずで周りに支えられていたか身に染みた。
その時豚汁にしていたなら、国王陛下も養豚所を増やして国の一大産業にしていただろう。

ブタは思った。
ブタの風上にも置けない、自立せねば!

ブタはその晩、ありったけの包帯を持って少年の寝顔を見ながら別れを告げた。
包帯は昼間に少年によって大量に身体に巻き付けて貰っておいた。それならばしばらく身体を洗う包帯に欠く心配はいらない。

翌朝、少年は泣いた。昼になるまで泣いた。
もっと早く売っておけば良かった、さもなくば食べておくべきだったと後悔したからだ。

そして昼になると教会に行き、ブタと再び会えることを祈った。
それからすっかり忘れて日常に戻った。少年は自立心が強かったからだ。

ブタの誤算は自分の短い豚足では包帯を外せないことだった。こうして思春期のブタはミイラとして生きていくことになった。

ブタミイラは、自立するため日々懸命に生きた。その過酷さに次第に痩せ細り、毛も抜けて、かつてのぷりぷりのおしりも失われた。

そしてやがて狼も虎も彼から逃げるほどの成長を遂げた。おそらく臭かったのだろう。
だがこうして一匹で生きていけるように自立はした。

思春期のブタ、ミイラ少年は少年のことを思い出していた。
あの心優しい少年は今も元気だろうか?


ある日少年が家に帰るとピンクスーツが訪ねて来ていた。
お父さんは言った。
「ついに最後のピースが揃うかもしれない。神からの天啓があって重大なことに気付いたんだ。子供をつくるにはビール腹だけでは不十分なんだ。お母さんと愛し合う必要がある」

ピンクスーツは淡々とタバコをふかして言った。
「お父さんとよりを戻したの。豪邸は売り払ったわ。本当に大切なものに気づいたから。辛抱させたわね」

少年は嘆いた。
「神様、ブタ違いだ!」

<一口解説>
登場人物
・少年:  勘違い多き愛すべき少年
・ブタ:  別名ミイラ少年 
・ピンクスーツのマダム: 少年の母親。人間だが、少年には、その体型とスーツの色からブタだと思われている。
・お父さん:  かつて妊娠したピンクスーツのマダムのお腹が膨らんでいたことから、ビール腹になれば、自分も子供を産めると考えている

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