税金のない楽園で、見つけた心の空白。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
ボルネオ島の北西に位置するブルネイ。ゆたかな天然資源にめぐまれたこの小さな国は、国民に税金がなく、教育や医療費が無料だという。いったいどんな暮らしがそこにあるのだろうか。好奇心に駆られ、わたしはこの静かな国へと足を運んだ。
首都バンダルスリブガワンのまちは、整然としていて、どこかおちついた雰囲気がただよっている。きらびやかなモスクが空に向かってそびえ立ち、そのそうごんな姿が印象的だ。まちを歩く人々はおだやかで、あわただしい様子はみじんも感じられない。
唯一存在する安宿のオーナーに話を聞くと、やはり税金がないという事実は、国民の生活におおきな安心感をあたえているらしい。「もちろん、国の財源はせきゆや天然ガスのおかげだけれどね」と彼は笑う。教育費や医療費の心配がないというのは、いったいどんな心地なのだろうか。想像してみても、なかなか現実味を帯びてこない。
まちなかのレストランで食事をしていた夜のことだ。となりから、まるでなつかしい歌でも聞こえてきたかのように、ひさしぶりに日本語が耳に飛びこんできた。丸4カ月ぶりの日本語だった。
話しかけてみると、彼らは世界一周の旅の途中で、豪華客船「ピースボート」の乗客だという。その夜のブルネイのまちは、突然活気を帯びていた。普段は静かなこのまちが、旅人の熱気で満ちていたのだ。
「寄港地は、いつも私たちでごった返すんですよ」と、彼らは楽しそうに笑った。わたしは、ただうつむいて、手元のフォークをかちゃかちゃと動かすことしかできなかった。
彼らの顔は、未来への期待に満ちあふれている。しかし、わたしは、ただただ流されるように、あてもなく旅を続けている。その彼らとの違いに、胸の奥でちりちりと何かが焼けるような、後ろめたさを感じた。
しかし、世界中を旅する彼らの話は尽きることがない。その話に、わたしはじっと耳を傾けた。遠い国で、同じ国の人と、こんな風に話せるなんて。
日が暮れはじめると、モスクからは美しいアザーンが流れ出す。空はゆっくりとオレンジ色に染まり、静かで穏やかな時間が過ぎていく。
税金がない。教育費も医療費も無料。
それは、私たちにとって夢のような話に聞こえるかもしれない。しかし、このブルネイという国では、それが現実なのだ。もちろん、資源に頼る経済のよわさなど、課題も抱えているのかもしれない。それでも、この国を歩き、人々とふれあう中で感じたのは、静かに満ち足りた、独特のしあわせだった。
そして、その夜、ピースボートの乗客たちと出会い、彼らがもつ旅の熱気にふれたことで、わたしは、この国がもつ「静けさ」とはまた異なる、世界の「広がり」を感じたのだった。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
Google Geminiと相談しながら創作しました。
カバーイラストは「宮崎駿」風のアニメイラストでお願いしました。

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