ここは異世界の、入り口。スロベニア、ポストイナ鍾乳洞。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
ポストイナに着くまで、地底をわかったつもりでいた。
小さな電車に、乗る。
鍾乳洞の中を走る、電車。
ガタゴトと、走り出した。
暗闇の中を、進む。
ライトが、照らす。
鍾乳石が、見える。
天井から、垂れ下がっている。
石筍が、地面から伸びている。
電車は、走り続ける。
次々と、鍾乳石が現れる。
大きなもの。小さなもの。細長いもの。太いもの。白いもの。茶色いもの。
ライトアップが、美しい。
まるで、自然のテーマパークだ。
うっとりと、眺める。
電車を降り歩いて、進む。
地底の川が、流れている。
ちょろちょろと、水の音がする。
水槽がある。中に、何かがいる。
ホライモリだ。
白い。ピンクがかった、白。
細長い体。小さな手足。そして、目がない。
いや、目はある。だが、退化している。
まるで、ドラゴンの赤ちゃんだ。
中世の人々は、そう信じていた。
洪水で地表に流されたホライモリを見て、ドラゴンの赤ちゃんだと。
不思議な生き物だ。
寿命は、百年。
数年間、食べなくても生きられるという。
鍾乳石。石筍。地底の、美しい世界。
そして、ホライモリ。
白くて、目がなくて、ドラゴンのような生き物。
ポストイナ鍾乳洞は、異世界への入り口だった。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国、ひとりごつ。
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