スラムの子が描いたのは、ピッコロ?だった。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
ケニアの乗り合いバン・マタトゥに乗った。
地元の人たちばかりだった。
外を見る。
ナイロビの街が、だんだん変わっていく。
高い建物が、減っていく。
そして、見えてくる。
トタン屋根が、続いている。
ずっと、どこまでも、延々と。
キベラスラム。
アフリカ最大級のスラム。
マタトゥを降りた。
足元に、ゴミが落ちている。
水たまりがある。茶色く濁っている。アンモニア臭がする。
衛生状態は、よいとは言えない。
トタン屋根の家々が、密集している。
狭い路地。
子どもたちが、走り回っている。
商店があった。
野菜、果物、日用品。
普通に、売っている。
学校もあった。
制服を着た子どもたちが、歩いている。
普通の、暮らし。
スラムだが、ここにも、暮らしがある。
昼間だからか、危険とは感じなかった。
人々は、わたしをちらりと見る。
だが、何も言わない。
ただ、通り過ぎていく。
子どもたちが、寄ってきた。
「ハロー」
わたしは、バックパックから、画用紙とクレヨンを取り出した。
ウガンダでもそうしたように。
「絵を描いてくれる?」
画用紙を配った。
クレヨンを渡した。
子どもたちは、夢中で描き始めた。
家を描く子。
動物を描く子。
太陽を描く子。
そして、ピーターという子が、描いた絵。
人?いや、人ではない。
何かの、生き物。
後頭部が異様に大きい。
これは。
ピッコロだ。
ドラゴンボールの、ピッコロみたい。
「これ、何?」とわたしは聞いた。
「ボク!」とピーターは答えた。
下には、スワヒリ語で『mimi ni peter』と書いてある
『I am peter』という意味だ
自分を描いたのだろう。
だが、この絵は、どう見ても、ピッコロだった。
もしかするとこの子は鏡を見たことがないのかもしれない。
絵を描き終わった子どもたちに、お金を渡した。
少しずつ。
子どもたちは、嬉しそうに受け取ってすぐにお菓子を買いにいった。
「ありがとう」
何度も、言ってくれた。
わたしは、スラムを歩き続けた。
トタン屋根。狭い路地。ゴミ。濁った水たまり。
貧困。
それは、確かにある。
だが、ここにも、暮らしがある。
学校があり、商店があり、子どもたちが笑っている。
そして、ピッコロを描く子どもがいる。
マタトゥに乗って、ナイロビの中心部に戻った。
バックパックの中に、子どもたちが描いた絵がたくさん入っている。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。



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