見出し画像

インドで、わたしは「カースト」に支配されていた。

この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


日本でのわたしたちは、買い手であり、いつだって客は神様だった。店に入れば、いらっしゃいませと笑顔で迎えられ、丁寧な接客を受けるのが当たり前だ。しかし、このコルカタの街で、その常識は通用しなかった。

コルカタの街は、どこもかしこも熱気と埃に満ちていた。クラクションが鳴り響き、人々の声がごちゃごちゃと混ざり合う。わたしは喉の渇きを感じ、小さな露店に入った。冷たいコーラでもあれば、この街の熱さを少しは和らげられるだろう。

店主は、カウンターの奥でふんぞり返るように座っていた。やる気のなさそうな顔。わたしは、お金を出し、コーラを指差す。すると店主は、仕方ないなという表情で、ぬるいコーラの瓶をカウンターにドンッと置いた。

代金はぴったりではなかったので、わたしは「釣りは?」と尋ねた。すると店主は、聞かれなければ渡すつもりはなかったとばかりに鼻をフンッと鳴らし、ポケットから小銭をちゃりーんと取り出すと、それをわたしに向かって投げつけてきた。

日本ではありえない態度だった。これが、モノを売る側の態度だろうか。腹が立ったが、同時に、妙な納得もした。この街では、売る側が偉いのだ。欲しいモノを持っている方が、欲しい側よりも立場が上なのだ。

ここでは、買う側と売る側の立場が完全に逆転していた。日本で当たり前だと思っていたことが、ここでは全く違う価値観として存在している。この旅で、わたしは何度もこの感覚を味わった。

それは、わたしがこの街の「カースト」に支配されている、ということだった。モノを売る店主が上。モノを買うわたしが下。この街にいる限り、わたしは、この新しいカースト制度に従うしかなかった。

その日、わたしは投げつけられたコインを拾い、黙って店を出た。コーラの味は、格別まずかった。

---

―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


いいなと思ったら応援しよう!

ぶるうす恩田 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!