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天井と、美女と。 セルビア、ベオグラード。

この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


セルビアに着くまで、美をわかったつもりでいた。

ベオグラード中心部。
丘の上に、白い大理石の大聖堂が見える。
聖サヴァ大聖堂。
セルビア正教会の象徴であり、完成まで一世紀以上を要した巨大建築。

中に入る。
空気がひんやりとしている。
外の喧騒が遠ざかり、足音だけが響く。

天井を見上げる。
黄金のモザイクが、広いドームを覆っている。
中央にはキリスト、周囲を天使と聖人たちが囲む。
ステンドグラス越しの光が、ゆっくりと壁画を照らす。
時間が止まったような静けさの中で、色彩だけが、かすかに動いていた。

ただ見上げている。
信仰と建築と、時間。
そのすべてが一つの空間に収まっていた。

大聖堂を出る。
外は、まぶしい。

カフェに入り、コーヒーを注文して、座った。

隣の席に、女性がいた。
背がスラリとした、スラブ系の顔立ち。
日本人とは、骨格から違う。

美しい。

彼女が、立ち上がろうとした瞬間。
カップが、倒れた。
コーヒーが、こぼれた。
わたしの方に、流れてきた。

「あっ、ごめんなさい!」

彼女が、慌てた。

「大丈夫ですよ。服には、かかってないので」
「よかった」

彼女は、ほっとした顔をした。

「旅行者?」
「そうです。日本から」
「日本! 遠いわね」

彼女は、にっこりと笑った。
美しい。

大聖堂の天井と、同じくらい、美しい。
いや、それは違うか。
でも、美しい。

「一緒に、写真撮ってもらえますか? コーヒーをこぼされたお詫びに」
「いいですよ」

自撮りで、二人で写真を撮った。

「ありがとう。楽しい旅を」

彼女は、手を振って、去っていった。
わたしは、スマホの写真を見た。

宝物が、増えた。

―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


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