絵本の中に、ワニがいた。エジプトのヌビアンビレッジ
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
エジプトに着くまで、客引きをわかったつもりでいた。
「ヌビアンビレッジに行きたい」と英語で言う。
すると。
男が、寄ってきた。
一人。また一人。また一人。
あっという間に、十人以上。
みんな、わたしを囲んでいる。
「俺が案内する」「いや、俺だ」「俺の方が安い」「俺はもっと安い」「俺が一番いい」
声が、重なる。
わたしは、立ち尽くした。
「いくらですか?」
「千ポンド」「五百ポンド」「三百ポンド」「二百ポンド」
値段が、バラバラだ。
正常な価格が、わからない。
誰が、正直なのか。誰が、ふっかけているのか。
わからない。
「百五十ポンド」
別の男が言う。
「百ポンド」
また、下がる。
疲れた。
もう、どうでもよくなった。
「あなたで」
わたしは、適当に一人を選んだ。
他の男たちは、舌打ちをして、去っていった。
やれやれ。
ボートに乗ってナイル川を、上る。
その先に、ヌビアンビレッジがあるという。
ボートは、ゆっくりと進む。
暑い。
屋根がないから安いのか。
村に着く。
家が、並んでいる。
カラフルだ。
青い家。黄色い家。ピンクの家。鮮やかな色。
だが、レンガ造りだ。ぼろい。
壁は、ひび割れている。
ペンキも、はがれている。
それでも、カラフルだ。
案内された家に入った。
中も、カラフルだった。
壁が、青い。天井が、黄色い。家具が、赤い。
まるで、絵本の中だ。
そして。庭に、何かがいた。
ワニだ。
小さなワニが、じっと、こちらを見ている。
「ワニ?」
「そう。ペットだよ」
案内人が、笑った。
ペット。ワニを、ペットにする。
ヌビアンビレッジでは、普通のことらしい。
ワニは、動かない。
じっと、している。
わたしも、じっと、見ていた。
しばらく、村を歩いた。
どの家も、カラフルだ。
どの家も、レンガ造りで、ぼろい。
そして、どの家にも、ワニがいる。もしくははく製が飾られている
不思議な村だった。
案内人に、お金を払った。
いくらだったか、もう覚えていない。
ふっかけられたのか、適正価格だったのか。
ボートで、戻った。
岸に着くと、また、男たちが寄ってきた。
「タクシーは?」
「ホテルは?」
「土産は?」
わたしは、無視して歩いた。
疲れ果てていた。
カラフルな家々。
絵本のような部屋。
ワニ。
それらは、確かに、珍しかった。
だが、十人以上の男たちに囲まれて、ふっかけられて。
もう、疲れた。彼らこそワニに違いない
宿に戻って、ベッドに横になる。
エジプト。
客引きの国だ。
やれやれ。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
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