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月明かりの砂漠、デコバスは西へ走る。

この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


パキスタンのペシャワールから、デコレーションされたバスに乗りこんだ。昼間は50℃にも達しようかという灼熱の太陽が照りつけるが、夜は肌にひんやりと冷たい風が吹きつける。バスは、砂漠の夜を、ブオーンという轟音をたてて、猛スピードで西へと走っていく。

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窓は開けっぱなしで、風とともに砂ぼこりがフワッと舞いこんでくる。顔にタオルを巻き、わたしは座席でじっと目を閉じた。視界を閉ざすことで、かわりに五感が研ぎ澄まされていく。エンジンの音、砂が窓に当たるチリチリという音、そして、車内を漂う人いきれのにおい。

ふと窓の外を見ると、そこには、月だけが明るく、砂漠の道筋を照らしていた。満月ではない、細い三日月。それが、まるで夜空に浮かぶ船のように、ゆっくりとわたしたちのバスを導いている。

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日本の国旗には太陽が描かれている。
それなのに、どうしてこの国や、中東の国々の国旗には、月が描かれているのだろう。灼熱の太陽が支配する昼間よりも、月がやさしく照らす夜のほうが、人々にとって大切な時間なのだろうか。

そう考えると、わたしは少しだけ、このバスの窓から差し込む冷たい風を、心地よく感じることができた。月明かりだけが頼りの旅。その先に何が待っているのか、それは分からない。それでも、この夜が、いつまでも続いてほしいと、そう願うわたしがいた。

―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


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