ミラノの地下鉄の、一瞬の悪夢。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
ミラノは日本の銀座と呼ばれるくらいおしゃれな街だと聞いていた。
ああ、こりゃ自分には合わないだろうなと、最初から少しシブシブした気持ちでいた。有名な大聖堂だけ見て、さっさと通り過ぎるつもり。それが、わたしのミラノでの計画だった。
だが、その計画は、地下鉄に乗ったことで、あっけなく崩れた。
ホームで路線図を確認したり、電車がどっちから来るかキョロキョロしていたのが、きっと悪かったのだろう。スリの集団に目をつけられた。ホームには人が少なかったのに、電車に乗った途端、日本の満員電車のように、体がぎゅうぎゅうに挟まれた。
そのとき、ドサッという音。
誰かが「何かリュックから落ちたよ」と声をかけてきた。わたしが拾おうとかがんだ瞬間、ズボンのすべてのポケットをまさぐられる冷たい感覚が、皮膚越しに伝わってきた。あっという間にすべてを抜かれてしまった。
次の瞬間、電車の扉がシュッと閉まり、彼らは何事もなかったかのようにホームへ。わたしは、何も言えずに車内へとりのこされた。まるで、一瞬の嵐。幸い、パスポートは無事だったが、リュックの底は無残にも切り裂かれ、少額の現金が入っていた財布は持っていかれた。200ユーロほどの紙幣とコインが、一瞬でフワッと消えた。
リュックの底を、心もとないガムテープでベタッと止める。
なんだか、このガムテープが、わたしの猜疑心を支えているようだった。おしゃれな街どころではない。周りの人がみな犯罪者ではないかと疑ってしまう。この恐怖と、裏切られたような感情から一刻も早く逃れたくて、わたしはそそくさとイタリアを出て、次の国、フランスへと向かうことにした。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
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