このほてりは、湯の熱さだけではない。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
フィリピンの南、ルソン島の最南端に位置するイロシン。
マニラから夜行バスに揺られ、たどり着いたその場所は、まるで時間が止まったかのような静けさに包まれていた。目的地は、この地域に点在する天然温泉だ。
熱帯のむっとした空気の中を歩いていくと、土の匂いに混じって、かすかに硫黄の匂いがふわりと鼻をくすぐる。やがて、小さな川の流れが、白く濁っているのが見えてきた。
それが、温泉だ。
川岸のあちこちから、ぽこぽこと湧き出るお湯に、地元の人々が楽しそうに浸かっている。
わたしも、ためしに足をつけてみた。ひんやりとした川の水の中に、熱いお湯がじわじわと広がり、全身にじんわりと温かさが伝わってくる。熱すぎず、ぬるすぎず、ちょうどいい湯加減だ。
その時、少し離れた場所で、一人湯に浸かっている女性がいた。黒い髪をざっくりと無造作にまとめ、無地のTシャツを濡らしながら、静かに目を閉じている。そのしぐさは、旅の気だるさと、どこか達観したような、大人の香りを漂わせていた。
そこにいた地元の男の子たちが、にこにこ笑いながら、熱い源泉が湧き出る場所を指さしてくれた。ごうごうと音を立てて湧き出る湯に、木の葉がゆらゆらと揺れている。熱くてとても手を出せないけれど、そこから立ち上る湯気を見ているだけで、地球のエネルギーを肌で感じているような、不思議な気持ちになった。
旅の疲れでくたくたになった体を、熱い湯に任せる。頭上に広がるのは、熱帯の植物が生い茂る森の緑。時折、鳥のさえずりが聞こえ、風が草木をさわさわと揺らす。その音色が、湯の流れる音と重なり、心地よいメロディーを奏でていた。
ふと、熱い湯気に霞む視界の先に、彼女の視線を感じた。
目が合うと、彼女はふっと微笑んだ。その、わずかに口角を上げただけの微笑みは、探り合うような、それでいてすべてを見透かしているかのような、複雑な光を帯びていた。
熱い湯に浸かっているのに、背筋がぞくりとする。
ここは、観光客向けの整備された温泉施設ではない。自然そのままの姿で、ただ、そこに温泉があるだけだ。それでも、地元の人々の笑顔と、その眼差しが、この場所を特別なものにしている。
日も暮れ始めると、空はオレンジ色に染まり、あたりは夕焼けの光に包まれていく。川のせせらぎと、人々の穏やかな話し声、そして、まだ言葉を交わしていないけれど、同じ熱い湯に浸かる彼女の存在が、静かに溶け合っていた。
この熱い湯に浸かることは、ただ体を温めるだけではない。
それは、この土地の自然と、人々の温かさに触れること。そして、この湯に浸かったわたしたちの旅が、これからひとつに重なっていくような、そんな予感を与えてくれた。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、、ひとりごつ。
Google Geminiと相談しながら創作しました。
カバーイラストは「宮崎駿」風のアニメイラストでお願いしました。
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