ショートショート 『ad』
『あなたの生活を豊かにする、カセイグループ!』
動物園でゾウを見ていると、突然広告が始まった。
『カセイグループは、毎日の生活を応援しています!』
横にいるミホも、僕と同じように死んだ目をして広告を見つめている。
『詳しくはアプリをダウンロード!』
鬱陶しい広告が終わると、檻に閉じ込められたゾウの家族が生ぬるそうな水を飲んでいた。
「ねえ、この後どうする?」
ミホが歩きながら言った。
「飲みに行こうか」
「いいけど、広告なしがいい」
「しょうがないな」
フラミンゴの水場では小さい子供を連れた4人家族が広告を見て歓声をあげている。きっとあの家族は入園料を余分に払い、広告なし動物園を楽しんでいるのだろう。
僕だって、広告なし入園料が払えないわけではない。でも、この後食事なり飲みなりに行くことがわかっていたから、動物園では節約させてもらったのだ。ミホには申し訳ないけれど。
「ライオン観に行こ!」
ミホが看板を指差して言った。
お金のない僕にも優しくしてくれる、ミホは本当にいい子だ。僕には勿体無いくらいだといつも思わせられる。
「見て、かっこいいね!あのオスが群れのリーダーかな」
かつて獲物を多く取ったオスが、車やジュエリーを買える男性が魅力的だったように、今の男の価値は「広告のない生活」を得られるかどうかで決まる。
はしゃぐミホの隣りで僕は立派な立髪を生やしたライオンのオスを見て、強い雄が勝つという生物普遍の法則に思いを寄せた。
…
「ねえねえ、酔ってきちゃった」
ミホは酒癖が悪い。雰囲気のいいバーに来たというのに。
僕はというと、さっきから少し離れたテーブルの男の貧乏ゆすりが気になって酔うどころではない。そんなに広告が嫌ならこんなところでケチらないでくれ。
「帰れる?」
「帰れなーい」
いつものパターン。だらしないと言えばそうだが、まんざらではないのが僕の本当の気持ちである。
「じゃあ泊まっていきな」
「いいの?」
「うん」
お会計。ただでさえいい値段のする雰囲気のいいバーで、広告なしときた。金額は見ないでスマホで済ませる。
…
「一緒に寝よー」
部屋に入るなり布団に飛び込むミホ。普段は潔癖の僕でも、何も言えない。
「しょうがないな…」
僕も靴下を脱いでベッドに入った。
「あなたの生活を豊かにする、カセイグループ!」
突然ミホが叫びだす。しまった!急いで僕はスマホを取りにベッドから出る。
「カセイグループは、毎日の生活を応援しています!」
叫び続けるミホを背に、急いでアプリを起動し、「ミホ」の文字を探す。
【月額プラン ミホ】
急いで支払いを済ませて戻ると、ミホは服を脱ぎ始めていた。
「早くー」
ベッドに入って思い出した。今日は25日、広告なしミホの支払いの日だ。
