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この夏の星を見たい。

映画「この夏の星を見る」を鑑賞した
鑑賞することを決定づけたのは、もちろん黒川想矢さんが出演しているからなのだが、この映画もアタリだった。

辻村深月原作の小説で、児童文学としても発売されている、いわゆる青春群像劇。コロナ禍において、学生が主体となりスターキャッチという天文イベントを開催することで、成長し友情を育んでいく話である。

キャストがまた秀逸だった。
当の役者の方々には申し訳ないが、俳優はアイドルのようなメチャクチャ可愛い少女やk-popアーティストのような綺麗な顔の少年が出てくるわけではない。ルックスがどこにでもいそうな方々なので、一見華がないように見える。大変失礼な感想ではあるのだが、主演の桜田ひよりさん以外にほぼ知っている名前はなく、マイナーな作品なのかと思っていた。
が、実際は大違い。役者は実力派揃いで、「怪物」「国宝」の黒川想矢さん、「PARFECT DAYS」の中野有紗さんや「違国日記」の早瀬憩さんをはじめ、繊細な演技をする方々が多く、とても深い芝居を堪能できた。
よくある「若いパワー推し」のお芝居ではなく、荒削りではあるが、視線や動線、アクション、細い糸を紡ぐような優しい芝居が多く、思春期の子供達の感情や思いがとてもよく表現されていた。最近の子役や若手俳優の素晴らしさに感服している。

ストーリーはありきたりだが、扱う題材が天文学であり、指定された星を自作望遠鏡で「キャッチ」することを得点化していくスポーツ大会の要素も取り入れた部活ものの話で、物語後半には、ちょっとしたドンデン返し風な展開もあり、とても楽しめた。なんならスターキャッチをやってみたいと思えるほどだ。
学生ものが好きな方ならとてもハマれるいい作品であった。

特に、この作品は、前半のコロナ禍に無理矢理振り回されていく学生・若者の姿をうまく捉えており、ここ5年くらいで身近なところに学生がいなかった私には、あの頃の学生たちが抱えていた不安や鬱屈とした毎日を送る様子を知る一つの材料にもなった。
人生の多感な思春期という時期にコロナ禍になり、人生が変わった人もいただろう。夢が叶えられなかった、部活や修学旅行でさえ、今までだったら当たり前のようやってくるイベントや行事だって、「普通に楽しむ」ことができなかった学生が多くいた、ということは知っている。
その上で楽しみにしていた全てのことを奪われてしまって青春を謳歌することさえ許されなかった、特殊な時代だったことがリアルに描かれている。
そんな鬱屈とした毎日、やり場のない怒りを健気に乗り越えていく様は、人生半ばを過ぎた私から見ても、活力を与えてくれ、そしてそれを応援したくなるような輝く生命力が描かれており、2時間を通してとても心が満たされるような感覚だった。
そしてその時代に学生だった人たちへ大人として申し訳なさがあったり、なんとかしてやりたいと思う親心が芽生えたり、「コロナ禍世代」と一緒くたにまとめてしまう自分を恥じる感覚も心の隅に見つけることができたり。
と、青春群像劇ではあるものの世代を問わず楽しめる作品なのではないだろうか。

さて、私のコロナ禍がどうだったか、というと、幸せなことに、コロナ前とコロナ禍、そしてコロナが2類から5類に変更された「コロナ明け」の一昨年から今までの間に、ほとんどと言っていいほど生活が変わっていない。
仕事を失うこともなく、家族を失うこともなく、そしてやりたいことができなかったり、生活がガラッと一変したこともない、今までと同じ生活ができているのだ。
もちろんその時代時期において、仕事にしろプライベートにしろ趣味にしろ制限されて満足にできなかった事がなかったわけではないが、学生という短い時間のその時期にしか経験できないことではなかったので、コロナの影響が圧倒的に少ない人生である。なんなら、コロナ禍にできなかったことを今やっている感覚もある。

この作品を見ることで、もし自分がそうだったならどうだっただろうか?
この主人公たちのようにその中でもがき、その中で自分らしい一歩を踏み出す行動力が果たして自分にあるだろうか?
と自分自身を振り返りたくなるような爽やかな爽快感がある素晴らしい作品だった。

そしてこの作品は、VFXやアニメーションの技術で、素晴らしい星空を表現している。それを楽しむためにも、ディスプレイでなく映画館で鑑賞することをお勧めしたい。


この映画を見た時に、「映画の良さとはこういう事なのだろう」と感じた。
私の場合、映画を楽しめる、映画を趣味にできるということは裏返してみると、「平凡な人生ではあるが、それは充実している」ということなのではないだろうか。
人生で絶好調なとき、あるいは絶不調な時、映画や芸術を楽しめる余裕は持てないだろう。
勿論、現実逃避という一面も持ち合わせているので、芸術や文化に救われるという形もあるので、その一辺倒ではないと思うが、今、コロナもなく、外国人がたくさん日本に来て逆に海外旅行にも行ける、旅行も部活も趣味も娯楽も、制限もなくやりたいことやりたい時にやれる。
それでもなお、やりたいことがわからない、なんていう贅沢な悩みを持てること自体が、裏返すと充実しており幸せなのではないだろうか。

改めて映画を好きになれた作品に出会えたことが私は嬉しい。
明日も頑張ろう。
そう思えるから、そう思える作品に出会えるから、私は映画が好きなのだ。

その思いを胸に、私は今日も空を見上げ、「一番近くて遠い星」をキャッチする。

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