消えた「スキ」と、暇な名探偵
「スキ」が、消えた。
あれっ?
たしかにあったはずなのに。
山の日の午後、私はその行方を追い始めた。
妻は朝から「新しい地図」の推し活へ。
稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんを追いかけ、意気揚々と出かけていった。
家には私ひとり。
せっかくの休日だ。
noteを開いて、いつもフォローしてくださる皆さんの記事をじっくり読もうと思った。
スマホではない。ノートPCである。
この歳になると、休日にパソコンを開く理由が「仕事」ではなく「note」というのが、少しうれしい。
ある方が綴った、半生を振り返るエッセイを読む。
画面の向こうから、その人が歩いてきた時間が伝わってきて、思わず背筋が伸びた。
その合間にも、
「○○さんがスキしました」
という通知が、ぽつり、またぽつり。
通知をいただけば、その方の記事を読みに行く。
記事を読んでスキを押し、また別の記事を読む。
なんとも贅沢な時間だった。
昼下がりの静かな部屋で、見知らぬ誰かの人生に触れ、こちらも「スキ」をひとつ置いて帰る。
SNSというと騒がしい世界のように思えるが、こういう時間は案外穏やかだ。
ところがだ。
私はサラリーマンをやりながら、FP1級を持っている。
職業病なのか、もともとの性分なのか、とにかく数字が気になる。
ふと自分の記事一覧を眺めていて、
「あれ?」
となった。
通知で見たスキの数と、記事に表示されているスキの数が合わない。
まあ、そんなことは以前からあった。
間違えて押すこともあるだろう。
システム上の都合かもしれない。
これまでは深く考えなかった。
ところが、その日はなぜか気になった。
一度気になると、もういけない。
減ったスキの行方を追い始めたのである。
完全に暇な名探偵である。
まず、フォロワーさん以外の方を調べてみる。
誰にスキを付けたか公開している人もいる。
そっと覗いてみる。
私の記事がない。
「ああ、この人だったのか」
いや、違うのか。
待てよ。そもそも本当にこの人なのか。
勝手に推理し、勝手に落ち込む。
探偵失格である。
そこで、ふと我に返った。
私は何をしているのだろう。
せっかくの山の日。
誰かの人生に励まされ、誰かの記事に共感し、豊かな気持ちになっていたはずなのに。
消えた「スキ」数個のために、その時間を自分で曇らせている。
スキの数なんて気にしない。
そう思っていた。
ところが、ひとつ減った数字は、不思議とひとつ増えた数字よりも強く目に飛び込んでくる。
そうなると、もうだめだ。
FP1級だの何だの以前に、
ただの「気になるおっさん」である。
思わず笑った一文。
胸が熱くなった体験談。
かわいい漫画のキャラクター。
そんなものは、スキがひとつ減ったくらいで消えたりしない。
そう思うと、さっきまで気になっていた数字が、少しだけ遠くなった。
もっとも、次にスキが減っていたら、また捜査を始める可能性はある。
そのときは名探偵ではなく、ただの暇なおっさんとして。
そんなことを考えながら、妻の帰りを待っている。
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