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熱、くらもちふさこ、滅!

先週末から「ヒトメタニューモウイルス」に侵されている。

ヒトメタニューモウイルス

何度だって口に出して言いたくなってしまうこの言葉を、残念にもほどがあるが、今は口にすることができない。

なぜなら、声が出なくなってしまったからだ。

熱で頭がぼーっとし、耳から入ってくる情報もぼんやりするので、映画やドラマを観るのもしんどくなってきた。

こんな時こそ「漫画」ではないかと、本棚の前に座る。
こういう時は、積読用の漫画ではなく、読み慣れた漫画の方がいい。

私は『闇金ウシジマくん』や『九条の大罪』などのアングラ漫画が大好きだ。でも、今週はあまりにも人と無駄話をする時間が短すぎたからか、あたたかい温度の作品を求めていた。

『ピューと吹く!ジャガー』『ヒナまつり』か……。
いや、ギャグ漫画は笑いすぎると咳が出るからやめよう。

『壇蜜』『東京最低最悪最高!』『きのう何食べた?』このあたりは最近ヘビロテしすぎているな。

となると……。

次なる棚に目を移すと、ずらりと「くらもちふさこ」の名が連なるゾーンに到達する。何を隠そう(隠していない)、私はくらもちふさこ先生の大ファンなのだ。

くらもちふさこ ゾーン

そうだ。熱がある時こそ、くらもちふさこじゃないか。
いろいろ迷った末、『Kiss+πr²』を抱えてベッドへもぐり込む。

そういえば、こどもの頃から熱で学校を休むと、ここぞとばかりに漫画を読んでいた。実家にも漫画がたくさんあったからだ。

実家の本棚には、母が集めた「漫画界のレジェンド」と呼ばれる作家たちの作品がずらりと並んでいた。
萩尾望都先生、山岸凉子先生、大島弓子先生、いがらしゆみこ先生、土田よし子先生などなど。錚々たる顔ぶれであった。
もしかしたら私は、"隠れ漫画エリート"を自称しても誰にも怒られない経歴を歩んできたのかもしれない。

そんな環境で育った私だが、「くらもちふさこ先生」のことになると、少し話が変わってくる。

好きすぎるのである。

くらもちふさこの作品と出会ったのも、実家の本棚だった。

初めて読んだ作品は『おしゃべり階段』。
天然パーマであることや、人とうまく関係が築けないことにコンプレックスを抱える主人公・加南の、中学から大学受験までを描いた物語だ。

熱を出し、学校を休んでいた10歳の私は、1冊を読み終え、
「何これ、私の話じゃん……この漫画家、すげぇ」
としばらく放心していた。

それをきっかけに、『いつもポケットにショパン』『東京のカサノバ』『海の天辺』『天然コケッコー』など、ほとんどの作品を何年もかけて読破した。

そんな懐かしい記憶を思い出しながら、ポカリスエットを飲み、ふぅと一呼吸しながら布団の中で『Kiss+πr²』を開く。

そして、その瞬間、あのエピソードの記憶がふいになだれ込んできてしまった。

💫

4年ほど前のことだ。

私は、弥生美術館で開催されていた「くらもちふさこ展」にいた。

初めてみる生原稿の美しさに震え、展示を何周もし、大満足で出口へ向かおうとしたその時。

「先生にメッセージを届けられるコーナーがあったよ。せっかくだからなんか書きなよ」

夫にそう促された。

「ぐぇ」

カエルのような声でYESかNOかわからない返事をする。
なぜならば、そのコーナーに気が付いていたからだ。

ではなぜ
避けていたのか。

"好き避け"である。

好き避けという言葉を恋愛リアリティショーで知ったのはつい最近のことだが、私はどうやらずっとその常習犯だったらしい。

「え?書かないの?またとないチャンスだよ? 本当に読んでくれるかもしれないんだから、なんか書きなよ。俺、トイレ行ってくる」

そう言い残した夫は、そのコーナーに私を置き去りにして、本当に行ってしまった。

メッセージを送ろう…..だと?

壁面に設置された大きなボードに、星型の付箋を貼るスタイルだ。

目に入った付箋を順に読んでいく。

涙ぐんでしまうほど愛のこもった言葉たちが、星座を描くようにボードに集結していた。

私もこの星の一つにならなけば。
好き避けしてる場合じゃない。

おそらく夫がわざわざこのタイミングでトイレに行ったのも、本心では私が先生にメッセージを書きたいに決まっていて、でもそれを書いているところを見られるのは嫌だろうと察したからであろう。

ならば、その思いやりを無下にするわけにないかない。彼が帰ってくる前に......!と、私はサインペンを手に取った。

固まった。

あれ。何一つ言葉にならない。

「好きです」
いや違う。

「10歳から読んでいます」
それだけでは足りない。

「人生を変えてもらいました」
重い。

脳内では作品との思い出が渋滞しているのに、星の付箋の上に気の利いた言葉が降りてこない。

そこへ夫が帰ってきた。
「あれ、まだ書いてないの? がんばれよ。待ってるからさ」

結局、私はしばらく呆然と立ち尽くした末、ほぼ目をつぶった状態で、たった一言だけを書き、逃げるように会場を後にした。


さて、なんて書いたと思います?


正解 :
「漫画を描いてくださってありがとうございます」


! ! ! ! 

20年以上作品を読み続けてきた人間が、捻りだした言葉だろうか。いや、到底そうは思えない。

なんて言葉を残してきてくれたんだ、2022年の私よ。

なだれ込んできた記憶に耐え切れず、『Kiss+πr²』をパタンと閉じる。
そして、布団の中で声にならない声を上げた。

🦠 🦠 🦠

今これを書きながらも、大声で叫びだしたくなっているが、声が出ないので、”穴があったら入りたい気持ち”になんとか切り替えている。

そして、放映中の『MUSIC AWARDS JAPAN 2026』では、M!LKが『好きすぎて滅!』を披露している。

好きすぎて滅!

初めて聞いた時は、まぁ!なんて大袈裟な歌詞なのかしらと思った。

でも実際にそうじゃないか。

人は本当に、好きすぎて滅ぶ。
少なくとも私は、くらもちふさこ先生相手に一度、滅んでいる。

好きすぎて滅!

あれ。
思い出したらなんだか顔が熱くなってきた。

全部、ヒトメタニューモウイルスのせいである。

『天然コケッコー』の時の絵が好きです

【くらもちふさこ先生 について】

1955年、東京生まれ。1972年に『メガネちゃんのひとりごと』でデビュー。代表作に『いつもポケットにショパン』ほか多数。80年代には「別冊マーガレット」の看板作家として活躍。1996年、『天然コケッコー』が第20回講談社漫画賞を受賞。さらに2017年、『花に染む』が第21回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した。2018年にはNHK連続テレビ小説『半分、青い。』に作品が登場し話題となった。

https://ebookjapan.yahoo.co.jp/content/author/18114/

「あ!これ読んだことある!」がみつかるかもしれません⤵

ちなみに、『Kiss+πr2』(キスプラスパイアール2乗)』は、両親のいない男子高校生が主人公で、宝くじがあたるところから始まります。派手な話ではなく、あくまでもゆっくりと人との関係性が変わっていく様を描いた作品で『おしゃべり階段』の次に好きな作品かもしれない。ポパイが好き。

そして、少し前に流行っていた『自分を構成する9つの漫画を選ぶ』という難問に、当時はこう答えていました。9つじゃ収まらないよ......。

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