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「帝国の貯水池」:HoYoLABと『ゼンゼロ』に見る、全方位循環の統治術【現役マーケターの解剖録 #7】

序:合理的なる包囲網

かつての広報とは、大海に網を投げ、一過性の獲物を待つような不確実な営みであった。だが、HoYoverseという組織の思考は、その根底から異なっている。彼らが成したのは、まず巨大な「貯水池」を築き、そこに民を留め、溢れんばかりの熱量を次なる領土へと計画的に流し込むという、極めて官僚的かつ知的な統治であった。

その中枢を担う「HoYoLAB」こそが、現代の遊戯業界において最も恐るべき「資産」の正体である。

1:第一の策・「貯水池」の構築(ユーザープール戦略)

囲い込みではない、収容である。HoYoLABという巨大な貯水池が、外部の喧騒から民を切り離す。

彼らは新作『ゼンレスゾーンゼロ』を世に出す数年も前から、既に民を城郭の内側へと収容し始めていた。それが「HoYoLAB」という名のユーザープールである。

• 獲得コストの無力化: 市場では一人の兵(ユーザー)を得るための支度金(獲得単価)が天井知らずに跳ね上がっている。だが、彼らは自前の貯水池に数億の民を囲っている。外部から募る必要はない。池の栓を抜くが如く、新作という水路を開くだけで、熱狂は自ずと流れ出すのだ。

• 情報の自給自足: 公式情報も、民の語らいも、すべてはこの池の中で完結する。外部の荒野へ一歩も出さぬよう、城内はあまりに便利に、そして快適に設計された。この「逃れられぬ利便性」こそが、最強の防壁である。

2:第二の策・「全方位」への灌漑(領土の拡大)

だが、貯水池に民を留めるだけでは、やがて水は澱(よど)む。そこで彼らが取った次なる一手は、ジャンルの重複を排した「全方位」への領土拡大であった。

• 重複なき入植: 剣と魔法の探索(原神)、星々を巡る思考(スターレイル)、そして都市を駆ける動(ゼンゼロ)。彼らは決して、自らの領地を荒らすような真似はしない。

• カニバリの否定: ユーザーという名の「パイ」を奪い合うのではなく、一人のユーザーの中に眠る「異なる娯楽への欲求」を一つずつ開発していく。

貯水池に溜まった民は、飽きることなく別の部屋へと移り住み、結果として帝国全体の版図は、新作のたびに雪だるま式に膨張していく。

3:武力の裏付け・圧倒的なる「質」(プロダクトの暴力)

戦略を現実に変えるのは、圧倒的な開発力という名の「武力」。この質こそが、帝国の絶対的な担保である。

忘れてはならないのは、この緻密な統治を可能にしているのは、机上の空論ではない。暴力的なまでの「開発力」という名の武力である。

• 新天地の美学: いかに水路を整えようとも、流し込まれる先が荒野であれば民は去る。だが彼らは、新作という名の新天地に、他を寄せ付けぬほど精緻な「街並み」を一夜にして築き上げる。

• 実力の独裁: プロモーションの妙手は、あくまで補助線に過ぎない。他者が数年を費やす品質を、彼らは呼吸をするが如き速度で提供し続ける。この圧倒的なる「質」の暴力があるからこそ、民は自ら進んで城門を潜り、帝国の円環に身を委ねるのである。

結:帝国の生理学

我々が目撃しているのは、単なるヒット作の連発ではない。まず巨大な「プール」でユーザーの生活を掌握し、次に「全方位」のジャンル展開でその時間を余さず使い切らせる。そして、そのすべてを圧倒的な「質」で裏打ちする。

この「貯める」「広げる」「魅せる」の完璧なる循環こそが、彼らが仕掛けた真の罠である。

諸侯よ、城郭の外で嘆くがいい。彼らの帝国は、自らが生み出した熱狂を燃料に、自給自足のまま永遠に膨張を続けるのだから。

※本記事における分析や考察は、公開された情報に基づいた筆者個人の主観によるものであり、関係各社の公式な見解を示すものではありません。

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