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カモシカvsシカ part1 こんなに違うよ。 カモシカとシカ

取材・文 須藤哲平(編集部)

日本には蹄をもった野生動物、いわゆる草食獣が3種類います。
イノシシとニホンジカ(以下、シカ)とニホンカモシカ(以下、カモシカ)です。
ここで、イノシシはそっと脇に置いておきます。
今回、話題に上げたいのはシカとカモシカです。

シカとカモシカは、その名前から仲間だと思われます。
たしかに分類学上のくくりでは、偶蹄目という同じグループです。
しかし、その下位の分類で見ると、シカはシカ科であるのに対し、カモシカはウシ科になります。カモシカは、シカと呼ばれていますが、その実態はウシの仲間なのです。しかも、ウシの中でもヤギに近いと言います。

科が違うと言われてもピンとこないと思うので、ほかの例で当てはめてみましょう。お馴染みイヌとネコは同じ食肉目に属しますが、下位の分類ではイヌ科とネコ科に分かれます。つまり、シカとカモシカはイヌとネコくらいしっかり違うのです。実態を知ると、全然違う生きものに思えてきますね。
今日でも世界中のあちらこちらで犬派vs猫派論争が巻き起こっていますが、しからば、シカとカモシカも対立しあってしかるべきなのかもしれません。

もう少し詳しく彼らの違いを知りたくなったので、専門家に話を聞いてみることにしました。こういうときは「餅は餅屋」です。東京農工大学特任准教授の髙田隼人先生は、大学生の頃から15年に渡りカモシカを観察してきたカモシカの第一人者です。台湾でタイワンカモシカを調査中の高田先生に、オンラインで取材しました。

須藤「カモシカはシカとつくけどシカではない、とのことですが、名前の由来はなんですかね?」

高田「共通する「シカ」の部分はどっちも肉という意味の「シシ」という言葉が由来で、イノシシの「シシ」もそうです。昔の人にしてみれば、どちらも獲物であることは一緒なので、似たような名前になってしまったのかもしれません」

カモシカ(ニホンカモシカ Capricornis crispus)
シカ(ニホンジカ Cervus nippon)

須藤「とはいえ、姿かたちを並べてみてみると、全然違いますね」

髙田「ぱっと見で全然違いますが、一番わかりやすい違いは角です。シカをはじめ、シカ科の動物の角は大体みんな枝分かれしているし、毎年定期的に生え変わります。カモシカはというと、枝分かれがない角[WU1] で一生生え替わらないで伸び続けます。これはウシ科の特徴でもあります。また、シカの角はオスにしかないけれど、カモシカはオスにもメスにも角があるというのも違います」 

須藤「たしかに角だけを見ても全然違いますね。どちらも山林にいるイメージですけど、分布域は違ったりしますか?」

髙田「今は2種が同じ場所に分布する場所がたくさんありますが、50年前はカモシカは山奥、シカは山の低いところに分布する傾向にありました。また、カモシカは日本固有種で、シカは大陸にも生息している点は違っています。それから、カモシカは北海道にはいなくて、シカは亜種エゾシカが北海道にいます」

須藤「ニュースなどを見ていると、シカは増えすぎて困っているイメージがありますが、カモシカは絶滅危惧種になっている地域もありますよね? 環境省のレッドリストでは、九州、四国、紀伊・鈴鹿山地の個体群は絶滅のおそれのある地域個体群(LP)に指定されていますね」

高田「そうですね。鈴鹿山地がとくに危機的な状況で、直近の調査では、かなり減っていることがわかって、このままだと地域絶滅してしまうかもしれないと言われています」

須藤「置かれている状況は正反対って感じですね。生態も違いますか?」

髙田「まったく違いますね。どっちも草食獣なので植物を食べることは共通していますが、シカのほうが、なんでも食べます。カモシカのほうが消化しやすい植物を選んで食べるから、グルメって感じですね」

須藤「そうなんですね。高田先生は、主に浅間山と富士山でフィールドワークをしていると聞きましたが、実際に彼らの行動を直接観察していてもその違いはわかるものですか?」

富士山5号目付近の環境。荒涼としたガレ場にオンタデがまばらに生えている

高田「例えば、富士山の高山帯で観察していても、カモシカとニホンジカで植物の食べ方が違います。富士山の高山帯は荒涼としていて、ガレ場にオンタデがまばらに生えている食物の乏しい過酷な環境なんですが、カモシカは、オンタデを何口かつまんでは歩いて、次の株に行ってまた何口かつまみを繰り返す食べ方をします。食べた後に植物を見てみても、食べられたかどうかかわからないくらい。だからオンタデへのダメージも少ないです」

カモシカが食べた後のオンタデ

須藤「なるほど、植物にもやさしい(?)食べ方をするんですね。一方のシカはどんな感じですか?」

髙田「シカは植物に気を使わないで、ほとんど全部食べてしまいます。立ち止まって、その株を食べ尽くして、また次の株に行っては食べ尽くす。葉っぱだけじゃなくて、花まで食べてしまうので、オンタデ側からすると、繁殖もままならない感じですね」

須藤「なぜそんな違いがあるのでしょうか?」

髙田「おそらくは生態の違いが関係していると思います。カモシカはなわばりをもっていて、同じエリアに大人のオスとメスそれぞれ1頭とその子どもが暮らしています。定住性が強くて、ほとんど引っ越しもしない。だから自分の住んでいる場所の植物をもし食べ尽くしてしまうと持続的に生活ができなくなってしまいます。なので食べ尽くさないで残したほうが都合がいい。そのほうが長い間同じ場所で生活できるので。しかも、数年に一度くらいのペースでしか子どもを産めないから、長生きして持続的に繁殖したほうが子孫を効率よく残せます」

須藤「サステイナビリティが重要なんですね。対するシカはどんな感じですか?」

髙田「シカは、群れで生活しています。なので、食べ物をとっておこうと思っても、隣のシカがすぐに食べてしまう。だから、むしろほかの個体よりも速く食べられる個体のほうが得なんですよね。とくにオスのシカはカモシカと違って繁殖相手をめぐるオス同士の競争が激しいから、体を大きくしないと子を残すことができない。必然的に早く、たくさん食べる必要があるわけです」

シカが食べた後のオンタデ

須藤「4人兄弟に生まれた自分には身につまされる思いです。同じ草食獣でもここまで違うんですね」

なるほど、シカとカモシカの違いは見えてきたような気がします。ここで気になるのは、実際にシカとカモシカが自然界で対立しているのか?ということです。生物学用語で言うと種間競争は起きているのか?ということを考えてみたくなります。

じつはこれについて、高田先生はすぐれた観察から昨年論文を発表しています。それはまた次回、深掘りしたいと思います。

次回「シカが多いとカモシカは困る?」


髙田隼人先生 プロフィール
 東京農工大学 農学部附属野生動物管理教育研究センター 特任准教授。山梨県富士山科学研究所研究員を経て2022年より現職。専門は行動生態学。ニホンカモシカを中心に、ニホンジカやコウモリ類、食肉類など幅広く野生哺乳類を研究対象とする。研究手法としては、フィールドで対象動物を直接観察することにこだわりをもつ。


そんな髙田先生の初めての単著が発売!
浅間山でカモシカを追った研究エッセイ!
『カモシカと進化をめぐる冒険 山の上の生存戦略』

髙田隼人 著 / 四六判 / 232ページ ISBN 978-4-8299-7262-5
2025年11月17日発売 定価2,200円(本体2,000円+10%税)


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