【映画】「ザ・ホエール」感想・レビュー・解説
いやー、こりゃあ変な話だなぁ。でも、なんとも惹かれてしまう。部屋から一歩も出ない主人公の5日間を、主人公の部屋の中だけで撮る異色の作品は、スパッとは割り切れない、なんとも言えない感覚をもたらす、実に奇妙な物語だった。
まずはざっくりと内容紹介から。
オンライン講師として、文章講座を教えているチャーリーは、体重272キロの巨漢である。Zoomを通じた授業では常に、カメラをオフにしている。彼は、テレビの前に置かれたソファからほとんど立ち上がれず、トイレや就寝などの際には歩行器を支えに歩くしかない。
ほとんど他人と関わりのないチャーリーだが、看護師のリズだけは、彼の日々の生活の面倒を見に毎日顔を見せてくれる。リズが何度病院に行くように諭しても、「保険に入っていない」「治療費が払い切れるはずがない」と、一向に病院に行こうとしない。リズも、チャーリーが病院に行かないだろうと分かっていてそう口にするのだが、一方で、そんなチャーリーがどうにか穏やかに日々を過ごせるようにと、彼女なりに色んなことを考えてチャーリーの世話をしている。チャーリーはそんなリズに対して何度も「申し訳ない」と呟くのだが、そんな言葉を聞きたくないリズは、「やめて」と口にして言わせないようにする。
チャーリーもリズも、チャーリーの死期が近いことははっきりと理解している。
リズ以外には、ドアの外から声を掛けてくれるピザ配達の男と、突然やってきたニューラーフの宣教師の若い男ぐらいしかいない日々に、突如若い女性がやってきた。彼女はエリー、チャーリーの娘だ。実に3年ぶりの再会である。
エリーはチャーリーにキツく当たる。しかし、落第しそうだという彼女が、チャーリーにエッセイの添削を頼んだことで、彼女との細い繋がりが残ることになった……。
というような話です。
観ながらずっと思ってたことは、「よくもまあこんなストーリーを映画にしようと考えたな」ということだ。公式HPを見ると、どうやら最初は舞台劇で上映されたそうだ。たしかに、ワンシチュエーションの設定は、舞台劇によく合っていると思う。
物語は、「なんだか分からない断片」が様々に積み重ねられるようにしてしばらく進んでいく。メルヴィル『白鯨』をテーマにしたエッセイ、終末論を語るカルトと見なされているニューライフの宣教師、関係性が不明なリズとチャーリー(公式HPの内容紹介ではその関係に触れられているが、この記事では書かないことにする)、観客がチャーリーに関する「ある事実」を知った上で登場する娘エリー、チャーリーがここまで巨漢になった背景などなど、分からないことだらけだ。
そしてそれらは、「それら同士の繋がりが明らかになった後」も、やはり観客に「モヤモヤ」をもたらすものである。なるほど、確かに「今眼の前で展開されているのがどのような状況なのか」は理解できた。しかし、その理解した内容は、やはり「おかしなもの」に感じられるというわけだ。
観客は次第に、チャーリーのみならず、チャーリーと関わる他の面々も「何か」を抱えているのだということが理解できるようになっていく。それぞれが抱えているものも、一言で「これ」と表現できるようなものではなく、結構ややこしい。そして、そういうややこしさが、「巨漢過ぎて外に出られないチャーリーの部屋」にひたすら溜め込まれていくことになる。
しかし、これが物語の奇妙な点でもあり面白い点でもあるのだが、その「メチャクチャ絡まりあったややこしさ」が、「絡まり合っているが故に奇跡的に解けていく」みたいな展開になっていく。恐らく、個別に対処しようとしたら、どれ1つとして解決に至らなかっただろう。しかしそれらが、有無を言わさず絡まり合い、もう何と何がどう絡まっているのかさえ分からない状態になったからこそ、ふとした瞬間にそれらすべてが一遍に解けていくみたいな「奇跡」が起こる、そんな物語だったと思う。
まあ、「奇跡」と呼んでいいような物語なのかは、なんとも言えないのだけど。
映画を観ながら、僕はずっとリズに気持ちが引っ張られることが多かった。そもそもチャーリーとリズの関係性が謎だったので、「何故ここまで献身的にチャーリーの世話ができるのか」とも感じたし、それは、2人の関係性が理解できてからも大きく変わりはしなかった。また、それとは別に、リズがチャーリーに関する「ある事実」を知ってしまってからの彼女の気持ちは、本当に想像が難しいと感じる。彼女自身、整理がつかなかっただろう。「私ってバカ」みたいなことを呟く場面から、そんな風に感じた。
リズがチャーリーとの関係に何を見出していたのか、それはなんとも分からないのだけど、部外者である僕が勝手に名前をつけるとしたら「共依存」みたいなことになってしまうのかもしれないと思う。リズが宣教師の若い男と外で話すシーンから、それを強く感じた。だからと言って、それが良いとも悪いともならないのだけど、とにかく登場人物の中で、リズに対してだけは「どうにか幸せになってほしいなぁ」と感じてしまった。
チャーリーに対しては、特に女性の観客がどう感じるのか興味がある。見た目は一旦置いておくとして、チャーリーの過去や、5日間の中でのエリーとの関わり方など、色んな意味でチャーリーは良い面も悪い面もある。女性が、それらを総合してチャーリーという存在をどう評価するのかは気になるところだ。もちろん、全面的に「良い」となるわけはないが、許容出来るのか出来ないのかという判断は気になる。
あと、シンプルに、宣教師の若い男は嫌いだなぁ。最初から最後まで嫌いだった。
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