【映画】「ナースコール」感想・レビュー・解説
これはなかなか凄まじい映画だったなぁ。正直、何が起こるというわけでもないのだが、メチャクチャ惹きつけられてしまった。
しかし、まず驚いたのが、劇場が満員だったことだ。「満員」と表示されていたので間違いない。僕も、元々観ようと思っていた時間のチケットを前日に確認したら売り切れていて、それで時間を変えてチケットを取ったぐらいだ。
今日はまだ公開3日目とかだと思うし、観た人の口コミが広まってみたいなことではないだろう。となると、上映前から話題になってたのかみたいに思うけど、本作のどこにその要素があるのかはよく分からない。監督も主演も、「誰もが知ってる」みたいな人ではないと思うし、題材も「ある病院の夜間勤務の数時間をリアルに切り取る」という、大分地味なものだ。こういう映画で劇場が満員になっていたことに、まず驚かされてしまった。
で、本作は、先程も少し書いた通り、「ある病院の夜間勤務の数時間をリアルに描き出す」という作品だ。主人公は外科病棟に勤務するフロリア。ベテランのようだ。しかし、ただでさえ人手不足が深刻で、その上この日はチームの1人が病気で休んでしまったのだ。その状態で、インターン1人の面倒も見ながら、もう1人の同僚と2人で26人の患者(満床)を見なければならないのだ。
やることは膨大にある。彼女はナース服の胸ポケットに「最低限やらなければならない仕事のチェックリスト」を忍ばせていて、終わらせる度にチェックを入れているのだが、その間にもどんどんと新たな仕事が舞い込んでくる。もちろん、「患者の容態が悪い」「突然発疹が出た」みたいな状況にはすぐさま対応する必要がある。しかしその上で、「先週まで入院していた人物の娘から、母親が病室にメガネを忘れたから探してほしい」と電話が来たり、「アメリカにいる娘(本作の舞台はスイスのようだ)から母親と電話させてほしい」と連絡がきたりする。
画面越しにフロリアの奮闘ぶりを見ている観客からすれば、「メガネとか後にしろよ」としか思えない。それぐらい、フロリアは殺人的な仕事量をこなしているのだ。しかも、ミスすれば命に直結する現場だ。普通の仕事以上に気は抜けない。
「医師から検査の結果を知りたい」とある患者から言われているのだが、その医師はずっと手術中で捕まらない。患者の家族(息子3人)が「午後から来てくれと医師に言われた」とずっと待っているのだが、やはりその医師も手術中で対応できない。そしてその応対をフロリアがしなければならなくなるのだ。
あるいは、経営者らしき横暴な男性が、「民間の高い保険に入ってるんだぞ」と言いながら「薬を持って来い」「お茶を持って来い」と言う。まあ、薬はもちろんいいが、フロリアの奮闘を見ている観客からすればやはり、「お茶ぐらい我慢しろよ」と思ってしまう。
フロリアもきっと、ずっと爆発寸前だっただろうと思う。しかし彼女は、やるべきことの優先順位を考えながら(当然、お茶は後回しになる)、すべきことをこなしていく。時折患者に、「今日は看護師が2人しかいなくて」と事実を伝えるが、しかしそれもあまち口にしない。「言い訳だ」みたいに自分で感じられてしまうからだろう。怒られたり嫌味を言われても、淡々と仕事をこなしていく。日本だったら「すみません」と言ってしまいそうな場面でも安易に謝らないところも好印象だった。
凄いのが、凄まじく忙しいのに、ちゃんと患者に寄り添うところだ。ある患者には低血糖のためブドウ糖の注射を打ったのだが、その際患者から「このままだと愛犬の里親を探さないといけなくなる」と言われる。そしてさらに、「写真を見てくれないか」とスマホを取り出すのだ。僕ならきっと、「すみません、また後で見せてもらいますね」とか言って次に進んじゃうだろう。しかし彼女は、1秒でも早くその場を離れたかっただろうに、ちゃんと写真を見て感想を言う。メチャクチャ有能だ。
彼女の有能さを最も実感したのは、映画の最後。帰りがけに、次のスタッフへのメモと共に黒いメガネを置いてて、「なんだっけこれ?」と僕は思ったのだけど、次の瞬間、「あっ、探してくれって頼まれてたメガネか!」となった。いやー、僕なら絶対に忘れてるなぁ。映画の相当序盤の話だったからなぁ。
で、この映画で描かれている「人手不足」はメチャクチャリアルなようだ。スイスでは、2030年までに3万人の看護師が不足すると予測されており、直近の(だと思う)4年間で36%も減ったという。またWHOの試算によると、2030年前に、世界で1300万人もの看護師が不足すると予測されているそうだ。数字が大きすぎてよく分からないが、深刻な事態であることは確かだろう。
さらに、人手不足が加速することで、本作で描かれているように働く環境はどんどん悪化していく。そしてそれ故に、ますます人が離れていってしまうという状況が起こり得るだろう。日本では「医師不足」を心配する声が優位な気もするが、恐らく看護師不足もどんどん進行しているのだと思う。日本の皆保険制度も、いつまで保つんだろうなと思う。
で、少しレベルの低い話をすると、僕は昔接客業(本屋)で働いていて、だから同じようにいくつかの状況がうわーっと重なって訳わからない状態になることはあった。ホントにやってられない。まあ接客業の場合は、ミスしたとて人が死ぬわけでもないし(食中毒とかはあり得るか)、看護師と比べられるようなものではないけど、フロリアが「あー、もうやってらんねー!」みたいに感じているだろうなということはなんとなく想像できるし、そういう中でもどうにかすべきことをやろうとするフロリアの奮闘には頭が下がる思いだった。
物語的には、終盤の展開が結構良かったなぁ。それまで、まるで自分もその病棟にいるかのような緊張感の中にずっといたから、終盤で割と穏やかな展開になっていくのがまず良かった。そしてその上で、ラストシーンは結構好きだったなぁ。何が良かったのかとか聞かれてもあまり上手く説明できないけど、「なるほど、そこでそういう要素が絡んでくるのか」という感じがした。
さて、これは公式HPに書かれていたことだが、主演を務めたレオニー・ベネシュはなんと、この役のために州立病院でのインターンシップを修了し、医療機器の操作や薬品の扱い方を完璧に習得したのだそうだ。凄すぎるだろ。映画を観ながら、「ホントメチャクチャ慣れた手つきだよなぁ」とは思っていたのだけど、まさかガチでやってたとは。役者ってのはホントに凄いなと思う。
僕が見たのはたった1日、しかも遅番勤務の時間帯だけだが、それでも凄まじい仕事量と忙しさだった。この日はスタッフが1人病欠だったとはいえ、もう1人いたって十分忙しいだろう。こんな毎日を過ごせる自信はないなぁと思うし、そう感じる人から辞めていってしまうのだろう。
コロナ禍の時に「エッセンシャルワーカー」という言葉をよく耳にしたが、日本(だけではないかもしれないが)ではエッセンシャルワーカーほど給料や待遇が低いように思う。もう、AIがさっさとホワイトカラーの仕事を奪って、エッセンシャルワーカーで働こうって人が増えたらいいのにね。
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