【映画】「レンタル家族」感想・レビュー・解説

なるほど、これはよく出来てたなぁ。

全然観る予定のない映画だったんだけど、ネットでたまたま「自主制作映画だけど、連日満員」みたいな記事を見た。K's cinemaって映画館で上映中なのだけど、実は去年1週間限定で公開した時も連日満員だったようで、たぶん今日も満員だった気がする。K's cinemaで連日満員になる自主制作映画は『カメラを止めるな』以来10年ぶりだそうで、かなり注目されているようだ。僕も、「連日満員」のネット記事を見てから、観に行く機会を伺っていた。

本作は上坂龍之介監督の初作品だそうで、初めての映画とは思えない巧さだった。役者も、特に主演の荻野友里がとても良かったなと思う。この人どこかで見たことある気がすると思ってたのだけど、公式HPの紹介を見て映画『ROPE』か、と思った。これも自主制作映画だったと思うけど、結構好きな映画だったんだよなぁ。

さて、本作はタイトルズバリで「レンタル家族」がモチーフになっている。最近、『レンタルファミリー』とか『ピーコック』など、レンタル家族を扱った映画に結構触れてるけど、それらとはまた違った雰囲気の作品で良かった。

「レンタル家族」を物語の中で扱う場合、まず浮かぶのは「何故レンタルするのか?」というレンタルする側に焦点を当てるという構成だろう。ただ、先に挙げた『レンタルファミリー』も『ピーコック』も、どちらかと言えばレンタルされる側がメインだった。まあ確かに、レンタルされる側をメインにする方が色んな展開を用意しやすいし、また「色んな人間のフリをする」という状況がアイデンティティを揺さぶる、みたいな流れも作れるのでやりやすいのかもしれない。

で、本作は最初「レンタルする側の物語」として始まる。ただ、これは設定が絶妙なのだが、荻野友里演じる沼田洋子にはレンタル家族を利用する動機が最初は無い。最後まで観るとこの設定はなかなか絶妙だったなと思う。

もちろん、本作の冒頭の展開から、「洋子がこんな風にレンタル家族を使うんだろうな」という想定は出来る。ただ、彼女自身、そこにあまり切羽詰まったものを感じていなかったこともあって、「どうしてもレンタル家族を依頼しなきゃいけない」という感じではない。だから僕は冒頭からしばらくの間、「これ、この後どう展開させるんだろうなぁ」と思っていた。

でそこから、「レンタルされる側に色んな事情がある」という描写になっていく。これがホントに良かった。普通の状況では、そういう設定を組み込んだところで話は展開しないのだが、沼田洋子の性格や、彼女が置かれている進行形の状況変化などが上手いこと絡まりあって、「そうなっていくのが自然だよね」という展開が生まれるのだ。

そして、普通なら「無理あるやろ」ってなりそうなそういう展開を絶妙に進めていった先に、「家族って何だろうね?」みたいなゆったりした問いかけみたいなものがじんわり広がっていく。「レンタル家族」を扱ってる時点で「家族って何?」って問いはある種必然的に組み込まれていると個人的には思うのだけど、本作の場合は、そういう「『レンタル家族』を扱ってるから必然的に出てきちゃうもの」ではなく、「登場人物たちの特異な関係性が熟成していくことによって自然と滲み出てしまうもの」みたいな雰囲気を醸し出していて、とにかくそれが凄く良かったなと思う。

本作を観て改めて感じたが、「レンタル家族」というテーマと「家族って何?」という問いはちょっと近すぎる。だから、普通に描くと、「はいはい、そうだよね」みたいな印象になっちゃうんじゃないかなという気がした。ただ本作では、最初の内は割と「家族って何?」という問いと距離を置いているように見える。もちろん、最初からフルスロットルで家族の話ではあるのだが、描かれているのはどちらかと言えば「認知症を患った母の対応の困難さ」や「離婚して娘とたまにしか会えなくなってしまった辛さ」とかであり、そしてそれらは「そういう大変さを抱えつつも頑張って仕事をする沼田洋子」という主人公の属性みたいなものとして描かれている感じがあった。だからそこまで「家族」というものが前面に出てくる感じがなかったのだが、「レンタル家族を使っていく」という物語の展開と並行するような形で徐々に「家族って何?」という問いが浮かび上がってくる感じがあって、そういう雰囲気が個人的にはとても好きだったなと思う。

で、これはあちこちで書いている話だが、僕は「血が繋がっていること」に対する関心が相当低く、マジでどうでもいいとしか思えない(子どもの頃からそうだった)。また、現時点で結婚していないが、もし結婚みたいな話になっても別に「法律婚」にこだわるつもりはない。紙切れで法的に認められるかどうかなど、マジでどうでもいいとしか思えない。

だから僕は昔から、「『血の繋がり』とか『紙切れ』の繋がりがなければ『家族』とは呼べない」みたいな感覚に超絶違和感を覚えてきた。未だに、意味が分からない。もちろん、「血の繋がり」とか「紙切れ」の繋がりのある相手を「家族」と呼ぶことに異議を唱えているわけではない。そうではなく、「もっと『家族』の定義は広くても良くない?」と感じてしまうのだ。

で、そういう意味で言うと、本作で提示される「家族像」は、個人的には凄く良く思える。その良さをどうにか言語化してみると、「『居場所の無い者同士』が一緒にいることで、そこが居場所になる」みたいな感じだろうか。

一般的には「家族を持つことで、そこが居場所だと思えるようになる」という感覚が自然ではないかと思う。が、本作『レンタル家族』ではそうではなく、「各々が自分なりの居場所を探していたら、結果それが家族というまとまりになっていた」みたいな状況が描かれる。僕が「家族」という響きにどうも嫌悪感を抱かされるのは、「当然そこを『居場所』だと感じるよね?」みたいな無言の圧力を感じるからなのだが、本作で提示される「家族」は、「『居場所』だと感じた場所に便宜的に『家族』という名前を付けた」みたいな雰囲気があって、それってメチャクチャ良いな、と感じたのだ。

こういう形で「家族」が組み上がっていくことが、ある程度の許容度で社会に認知され、そのためのプラットフォーム的なものが実現したら、僕的には結構理想的かもしれないなと思ったりする。

選択的夫婦別姓の話が進まない理由の1つに、「伝統的な家族の形が壊れちゃう云々」みたいな批判もあったりするようだし、そんなことごときで選択的夫婦別姓すら実現しない世の中では夢のまた夢だろう。ただ本作のようなものがたりがもし世の中的に広く共感され、「こういう需要もあるんだな」ということが可視化されたら、ちょっとは物事が動くかもしれないよね。なんて思ったりするし、そういう意味でも広く観られたらいいなぁ、と思う。

というわけで内容の紹介をしておこう。

都内のPR会社で働く沼田洋子は、仲の良い部下から「仕事しすぎですよ」と言われるぐらい真面目に仕事をしている。社内での評価もとても良いようだ。しかし仕事以外の状況はなかなか大変だ。夫の創とは離婚しており、で、恐らく「仕事が忙しすぎた」みたいなことが離婚理由なのだろう、娘の紗奈の親権は創が持つことになったようだ。

しかしそれよりも大変なのが、母のことである。認知症を患っており、さらにその進行がかなり早いようなのだ。洋子が既に離婚していることは聞いているはずなのに、「創さんと紗奈ちゃんは来ないの?」と聞いたり、回覧板を渡してくれた人に別の人にすべきお礼をしたりする。挙句、家の前にいた女の子を紗奈だと思い(別に見た目が似ているわけではない)家に連れて行こうとするほどだ。日々のことは父親が見ているが、父親も高齢で負担が大きい。洋子は定期的に実家に顔を出しては、色々手助けをしている。

さてそんなある日、「レンタル家族のPRを考えてほしい」という依頼を受ける。洋子には全然馴染みのないサービスで、だからこの話を持ちかけた人から「せっかくだからちょっと使ってみてよ」と言われてしまった。まあ確かにPRを考えるなら使っているに越したことはないわけで、「レンタル夫」という名目で部屋の掃除を頼むことにした(それじゃただの掃除代行で「レンタル夫」という感じではないのだが)。

最初に来た人がちょっと微妙で、2度目はいいかなと思っていた洋子だったが、もう1回ぐらい使ってと頼まれて別の人をお願いしたところ、やってきた松下豪がとても良い雰囲気で、洋子は食事の買い出しに行くという彼に「2人分でお願い。あと、好きなお酒も」と頼んだ。一緒にご飯を食べましょう、というわけだ。

そしてその時に洋子は、直近の悩みを相談することにした。母親の誕生日が迫っているのだが、創と紗奈に会いたがっているのだ。ただ、前回娘に会った際に元夫に「来てくれない?」と頼んでみたのだが、断られてしまった。創は再婚の予定があるようで、まあ仕方ないだろう。でそんな話をしていたら、「まさにそれこそレンタル家族の使い所ですよ」と豪に言われる。自分が創の代わりに実家に行くというのだ。

こうして、紗奈役の子役(朱里)も連れて洋子は母の誕生日を祝うことにして……。

というような話です。

本作はざっくり、「最初の1/3で洋子がレンタル家族を積極的に使うように流れを描く」「次の1/3で、レンタルされる側の豪、朱里の抱える事情を描く」「最後の1/3でそんな3人+2人がどんな関係を築くのかを描く」という流れと言っていいだろう。

で、初監督作品なのに凄いなと感じたのは、「最初の1/3ではほぼ物語が動かないこと」だ。物語を作って提示する側として、これは結構怖いんじゃないかと思う。最初に「特異な状況」とか「物語を引っ張る謎」とかをバーンと提示することで観客を惹きつける、みたいなのは常套手段だと思うし、特に新人作家ほどそういう風にしちゃうんじゃないかなという感じもするが、本作は全然そうではない。マジで最初の1/3は特筆すべきことは起こらない。「その後の物語に関わってくる要素を丁寧に描く」というパートであり、人によっては退屈にも感じられるかもしれない。

いや、部分部分では面白い描写はあって、「認知症の母の言動に困惑する」とか「最初に来たレンタル夫の軽薄さにちょっと不審を抱く」とか「陽気だけどあんまり仕事しなそうな会社の後輩と上手く関わる」とか、そういう描写は面白い。ただ全体として最初の1/3は別に何も起こらないし、それは物語の展開のさせ方として結構勇気が要るだろうなと感じた。

ただ本作ではこの冒頭1/3で「沼田洋子がどういう人物なのか」ということがかなり丁寧に描かれるので、それが後半かなり良い感じに効いてくる。「こういう人物だったら確かに、こういう行動になるよな」という説得力として機能するのだ。

それが一番強く出たなと思うのが、中盤1/3で洋子が「全然良いんだけど、私、レンタルの依頼したっけ?」と口にする場面だ。ここはホント絶妙だったなぁ。正直、普通には成立しないシーンだと思うのだが、「沼田洋子ならワンチャンあり得るか」という雰囲気がかなり強いなと感じられた。最初の1/3で沼田洋子を丁寧に描き出したからこそという感じである。

で、そういう演出とか構成も上手いと思うのだが、沼田洋子を演じた荻野友里がマジでメチャクチャ良かった。何が良いのかよく分からないが、とにかく全体の佇まいが素晴らしかった。ラスト1/3で沼田洋子が「私ってどう見えてる?」と言った後で結構印象的なセリフを口にするのだが(具体的には書かない)、それを聞いて改めてそれまでの沼田洋子を振り返って「確かにそうだよなー」という感じになるような雰囲気を絶妙に醸し出していたなと思う。本作はホント、彼女の雰囲気あって成り立った作品じゃないかなという感じがした。

というわけで、凄く良かったなぁ。『カメラを止めるな』とか『侍タイムスリッパー』みたいな「単館から大ヒットした自主制作映画」みたいになるといいなと思う。ただ本作『レンタル家族』は、『カメラを止めるな』とか『侍タイムスリッパー』みたいな「分かりやすいどエンタメ」って感じではなく、染み入るように問いかけるような映画だから、ちょっと今後どこまで跳ねるかは未知数だなぁ。『カメラを止めるな』や『侍タイムスリッパー』みたいな「ここが面白い!」って分かりやすく言えるポイントの少ない映画だからどうなるか分からないが、個人的には広く観られる映画になったらいいなと思う。


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