【映画】「万事快調〈オール・グリーンズ〉」感想・レビュー・解説

これはメチャクチャ面白かった! 正直、冷静にストーリーを振り返ってみたら、「これって成立してるんか?」って感じで、とにかくハチャメチャでファンキーすぎる物語だ。でも、すげぇ面白かった。作中にいろいろ「気になる要素」が散りばめられているのに、それらのほとんどがストーリーに関係なかったりするんだけど、それでも面白い。とても不思議だ。

で、そんなムチャクチャな物語を成立させてるのが、南沙良だと思うんだよなぁ。

僕は南沙良のことが結構好きで、彼女の出演作は結構観ている。で、彼女自身は「正統派美少女」という感じのビジュアルなのに、僕が見てきた役はどれもやさぐれてたり何か抱えてたりする。本作に「漂白された青春のステレオタイプ」という表現が出てくるのだが、南沙良はそういう「ザ・青春」みたいな物語のど真ん中の主人公だって全然やれちゃうだろう見た目の人なのに、そうじゃない「青春からはぐれちゃいました」みたいな役をメチャクチャ演じることが多い気がしている。

で、そういう役がまあホントハマるんだよなぁ。不思議。僕は以前、『マイ・ブロークン・マリコ』という映画で永野芽郁がタバコを吸ったりするやさぐれた役をやっているのを観たことがあるのだけど、「うーん、全然合ってないなぁ」と感じた。ビジュアルとか、その時点での永野芽郁のパブリックイメージなんかとどうにもかけ離れている感じがあって、「無理してる感の方が強いなぁ」と感じてしまった。

しかし、南沙良にそういう雰囲気を感じることはない。ホントにやさぐれてるみたいな雰囲気を出すのだ。本作で彼女は高校生役なのだが、なんと作中ではタバコを吸ったり、ロング缶のチューハイを飲んだりしている(恐らくそのせいでPG12という区分けなんだろう。いや、それだけじゃないが)。で、それが別に全然しっくり来るっていうか、「こういう人、いてもおかしくないよなぁ」という感じになる。

で、その上で、南沙良は「正統派美少女」みたいな見た目の人なので、どれだけやさぐれても、その佇まいから「品」みたいなものが失われることがない。これが凄く重要な要素な気がしてるんだよなぁ。本作は、ともすれば「下品」になってしまいがちな場面は多々あるのだけど、少なくとも僕はそんな風には感じなかった。そしてそこにはやはり、「南沙良が持つ品」が関係している気がする。この「やさぐれ」と「品」を両立させるのは結構難しい気がしていてて、彼女のようなスタンスが成り立つ役者をちょっとパッとは思いつけない(年配の男とかなら「岡部たかし」とか色々いそうだけど、若手の女優となると結構難しくないだろうか?)。

そんなわけで、南沙良が出演する作品は割とどれも彼女の存在感が作品において重要になる気がするのだけど、本作もやはりそのような作品で、ホント、良い存在感の役者だよなぁと思う。

というわけで、ざっくり内容の紹介をしておこう。

舞台は茨城県の東海村の工業高校。「受験を諦めた奴」か「金がなくて私立高校に行けない奴」しかいないというこの高校で、恐らくそのどちらもであるのが機械科2年A組の朴秀美だ。家では父親の怒声と母親の悲鳴が充満し、彼女は日々、駅前でラップをする集まり(東海村サイファー)に参加している。彼女にとって、唯一息が出来る場所だ。最底辺の高校の中でもヒエラルキーは最下層で、早くも人生どん詰まりという感じだ。

物語は、そんな彼女が知り合いから、有名なトラックメーカーを紹介されたことから始まる。曲を書いてくれるというのだ。しかし、あーだこーだがあって彼女は、ヤバい行動と引き換えにあるものを手に入れた。

大麻の種である。

さて一方、2年A組のヒエラルキーの最上位にいるのが矢口美流紅だ。彼女はまさに「ザ・青春」みたいな学生生活を過ごしている(ように朴秀美には見えている)のだが、彼女自身の認識は少し違う。「ミルクなんて名前を付ける親には問題がある」わけで(まあ、原因らしい原因はあるのだが)、彼女の母親はちょっとイカれてしまった。そしてそんなイカれた母親と2人で暮らす彼女は、「理想の娘を演じなければ母親を殺してしまうかもしれない」と考え、そうやって「陽キャな性格」を手に入れたのだった。しかし、彼女自身が「新しいイベントが必要だ」と考えて起こしたある出来事をきっかけに、彼女は「ヒエラルキーの最上位」とは違う生き方を選択することになる。

朴秀美と矢口美流紅の日常は基本的には交わらないのだが、ちょっとしたことをきっかけに2人の距離は一気に縮まっていく。そしてそこに、同じクラスの岩隈真子が加わる。この3人は、仲良くなる前にたまたま、深夜の交差点で女性が車に轢かれるのを目撃していた。その女性は、後に皮に飛び込んで亡くなったそうだ。

そしてこの3人は、「このクソみたいな村から出るには金がいる」ぐらいのさらっとした理由で、ある決断をする。大麻を育てて売りさばくのだ。しかもなんと、学校の屋上で……。

というような話です。

「女子高生が学校の屋上で大麻を育て、それを売りさばく」というムチャクチャな話で、普通なら「なんだそれ?」って感じになっちゃうと思うのだけど、本作は全然そんな印象にならず、最初から最後まで惹きつけられてしまった。やはりその最大の要因は、朴秀美を演じた南沙良の佇まいにあると思うのだけど、矢口美流紅を演じた出口夏希とか、岩隈真子を演じた吉田美月喜とかもとてもよくて、この3人がとにかく絶妙な雰囲気を漂わせていたことが本作においてとても重要だったなと思う。

特に、「物語を動かす」という意味においては、矢口美流紅の存在感がとても重要で、出口夏希がとても良い雰囲気を出していたなと思う。「ザ・スクールカースト最上位」という雰囲気を醸し出したままナチュラルにそして狂気的に犯罪に加担していくのだけど、その整合しないはずの雰囲気がきちんと両立していて、凄く良かったなと思う。そして、朴秀美は朴秀美で狂気的なのだけど、彼女1人では物語はまず動かなかったはずで、本作のムチャクチャな物語を「なるほど、こういうことならそうなるかもしれない」と思わせるだけのムチャクチャさで動かし続ける彼女の存在は非常に重要だったなと思う。

さらにその上で、岩隈真子が一応「常識人」的な立ち位置になっていて(大麻栽培に加担している以上、常識人もクソもないのだが)、朴秀美と矢口美流紅があまりにもぶっ飛んでいるが故に相対的に常識人に見えているだけなのだが、彼女がいることで「一応バランスが取れている」みたいな印象になるのも良い。3人それぞれが、物語世界やその展開を成立させるために絶妙な役割を担っていて、その上で、ちゃんとそれぞれのキャラクターが存在している(物語を動かすだけの単なる駒ではない)という感じもあって、良かった。

僕は基本的にはストーリーにしか興味がないのだが、究極的にはストーリーのことなんかどうでもよくて、「雰囲気が良かったら良い」みたいに思っている。で、本作は、3人の主人公が生み出す雰囲気がとにかく素晴らしくて、その雰囲気に引きずられるように最後まで観させられてしまったなという感じだ。

本作は、正直ストーリーと言えるほどのストーリーはなくて、「なんやかんや色々抱えた3人の女子高生が、学校の屋上で大麻を栽培して売りさばく」という物語のメイン骨格に、ガチャガチャと色んな要素をくっつけたみたいな作品だ。「死んだじいちゃんの盆栽をばあちゃんが枯らし続けている」「交差点で轢かれた女性を3人が見ていた」「矢口美流紅の名前の由来」など、本作には色々と面白いエピソードが出てくるのだが、それらは正直、物語全体に対して影響しない。そういう「意味なしエピソード」みたいなものが、本作にはどんどん出てくるのだ。普段の僕なら、「物語に関係ない要素多すぎー」みたいに感じそうだが、本作の場合は、「メインの物語が薄い」という状況を「無関係な要素を大量に散りばめて幻惑させる」みたいな雰囲気が感じられてなんか良かった。

ってかそもそも、彼女たち3人が大麻栽培に手を染める動機が、色々あるっちゃあるけど、結局のところ「このクソみたいな村から出るため」であり、「それって、結構な犯罪に手を染めるのに見合った動機っすか?」みたいに思えてしまったりもする。そういう意味でも「物語の薄さ」みたいなものを感じるし、そしてそういう「物語」を色んな「濃い蛇足」でグチャグチャにしていく感じは、結構良かったなぁ。何で良いって感じるのか、よく分からないけど。

あと、映画『みはらし世代』でも絶妙な演技を見せていた黒崎煌代もさすがだった。ホント、どの作品でも独特の雰囲気を醸し出すよなぁ。いそうでいない、いなそうでいそう、みたいな感じがあって、唯一無二って感じするよなぁ。とても良いと思う。

そして、そんな黒崎煌代と南沙良のシーンで、「そっか……そっか……」みたいなシーンがあって、これ結構好きだったなぁ。朴秀美らしい受け答えって感じだったし、あと、それを受けてのジャッキー(黒崎煌代が演じた役名)の振る舞いも良い。しかしこのシーンも、このシーンだけで完結しているというか、物語全体において大した役割を有していないという感じで、「濃い蛇足」の1つでもある。

あと、「濃い蛇足」の最たるものと言えばラストシーンだろう。メチャクチャファンキーな場面で、もうここまで来るとふざけてるだろって感じさえするような展開に思えるんじゃないだろうか。でも本作では、そこまでの物語の流れ的に全然不自然じゃない感じがするし、むしろ「なるほど、なるほど、こんなファンキーなラストにしたんですね~」みたいなウェルカム感もあって、最後の最後まで楽しかった。

物語の骨子だけを抜き出せば、本来は「暗くジメッとした話」になるはずなのだけど、様々な要素によってまったくそんな物語にはなっておらず、色んな意味でチグハグで面白いなと思う。昔観た映画『ベイビーわるきゅーれ』みたいな感じで、「ストーリーは無いに等しいけど、雰囲気が最高で、その雰囲気だけで延々と観ていられる」みたいな作品だった。本作の良さを上手く伝えられていない気もするが、凄く良い映画だったなと思う。

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