【映画】「Yesterday」感想・レビュー・解説
もっとナチュラルに嘘をつける人間だったらなぁ、と思う。
いや、嘘をついても、あまりバレない。そういう「嘘をついているように見られない」という意味では、ナチュラルと言えるかもしれない。
ただ。嘘をついている時の自分の内面は、なかなか穏やかではいられない。
それが、特定の誰かを傷つけるような嘘でなかったとしても、どうも苦手だ。「嘘をついていることがバレること」が怖いのだと思う。一度そうなってしまったら、誰も僕の話をまともに受け取ってくれなくなるんじゃないか。オオカミ少年が陥った状況になることを、僕はたぶん、殊更に恐れているんだと思う。
だから、余程のことがない限り嘘はつかない。誰かを守るためとか、自分が死なないためとか、そういう状況でもない限り、なかなか嘘はつけない。
嘘をつくなら、永遠にその嘘をつきつづける義務がある、と僕は感じる。それは、嘘をつく者の定め、というのが、僕の基本的な考え方だ。「嘘をつくこと」そのものが悪なのではない。「嘘をついていることを明かしてしまうこと」が悪なのだ。もちろん、「バレてしまうような嘘をつくこと」も悪だ。この辺りの感覚が合わない人とは、芯の部分から信頼するのは難しいなぁ、と感じる。
誰の言葉か忘れたが、「一人殺せば犯罪者だが、一万人殺せば英雄だ」というものがある。この言葉の良し悪しはおいておくとして、これを借りれば、「ちょっとした嘘は罪悪だが、壮大な嘘は芸術だ」とでも言えるかもしれない。
例えば。映画『マトリックス』の世界は、まさに壮大な嘘だが、あれがもし実現するとするなら、ある意味で救われる人は多いような気がするし、芸術と呼んでいいレベルかもしれない。ネッシーやミステリーサークルなども、僕の知っている限りではフェイクだと証明されたんだったと思うけど、ああいうのも、世界中を巻き込んで盛り上がりを生み出したという意味で、芸術と呼んでもいいかもしれない。
この映画の設定も、まさに、芸術レベルの壮大な嘘と言っていいだろう。まったく、面白い設定を考えたものだ。
内容に入ろうと思います。
ジャック・マリクは、イギリスの片田舎で暮らしている。ジャックは子供の頃から、ギターを持って演奏を続けていて、幼馴染で数学教師であるエリーはその才能を信じて、マネージャーのような役割をずっとしている。ジャックは、自分で作詞作曲もするが、長年夢を追い続けても、パッとしない。結構大きなフェスで歌えることになったジャックだったが、そこでの観客の反応を見て、ついにエリーに切り出す。もう夢を追うのは止めよう。僕たちに、光り輝く未来はないんだ、と。
その夜。エリーの車から降りて、自転車で家に向かっていたジャックは、突然の停電の最中車に轢かれ、入院することになった。病室でエリーに聞くと、全世界同時に12秒だけ停電が起きたのだという。前歯を折りながらも、重傷を負わずに済んだジャックは、退院祝いとしてギターをもらった。もともと使っていたのは、事故で壊れてしまったのだ。何か弾いてくれと言われたジャックが、じゃあ今この場にふさわしい歌を、と言って歌い始めたのが、ビートルズの名曲「イエスタディ」だ。
しかし、歌い終わると、その場にいた面々が全員涙を流している。おかしい。誰だって一度は、いや、今までに何度も聞いたことがある歌じゃないか。エリーは、「いつ作曲したの?」と、わけの分からないことを言う。「ビートルズの曲じゃないか!」とジャックが言っても、その場にいた友人の一人が、「ミュージシャンってのは、マイナーなバンドを誰もが知ってるって勘違いするんだ」などと言う。ジャックは当然こう思う。入院していた自分を、みんなでからかってるんだ、と。しかし、エリーは運転中も、しつこく「ビートルズなんて知らない」と言い、ジャックは怒りで車から降りてしまう。
しかし…とジャックは思う。そんなはずはないけど、まさかね…と思って、Googleで「The Beatles」と調べてみるが…。
まさか。ビートルズに関する情報がまったく出てこない。
なんてこった。あの事故以来、この世界からは、ビートルズが完全に消えてしまった…。
というところから始まる物語です。
もう、設定だけで勝ってる映画だな、と思いました。正直、ストーリーの展開で、予想外とか意外性とかはありません。最後どう物語が終わるんだろうなぁ、という部分の関心はあったけど、まあそういう風に物語は展開していくよねー、という想定通りの物語です。ただ、だからと言ってつまらないわけではありません。っていうか、面白かった!安心して観れる物語という感じで、エンタメ作品として非常に良く出来てるなぁ、と思いました。
さっきも書いたけど、とにかくもう、設定が絶妙です!事故に遭って目が覚めたら、世界からビートルズが消えてて、ビートルズの楽曲は、ジャックの頭の中にしかない!ということに。そりゃあ、なんというか、ワクワクするっていうか、浮足立つっていうか、足元がおぼつかないとか、そういう感じになるよなぁ、と。絶対にありえないけど、そんなありえないことがもし起こったら、そりゃこういう感じになるよね、というのを、物語として確認していく、というような感じでした。
個人的に面白かった、というか、なるほどリアルだよなぁ、と思ったのは、ジャックが新曲を書いたと言って、諦めたはずの音楽活動を再スタートさせる日のこと。両親から「作曲したというなら聴かせてくれ」と言われて、ジャックが歌ったのが、ビートルズの名曲「レット・イット・ビー」。しかし、この曲に、両親はさほど感銘を受けないわけです。これは凄くリアルだなぁ、と思いました。
料理でも、「食べログで星3.5だから美味しい」というような評価の仕方があるけど、同じようなもので、ジャックの両親は、ジャックの身辺が激変してから、「レット・イット・ビー」が良かったと言うわけです。これは、そういう受け取り方を非難しているとかじゃなくて、そうなっちゃうよなぁ、と思ったので非常に印象的でした。
この映画を観ていて、劇中でビートルズの曲がガンガン流れて、普段ほとんど音楽を聴かない僕でも全部聴いたことがある曲ばっかりでした。やっぱり、ビートルズの曲って良いなって思うんだけど、でもこれ、聴き慣れてるからってのもあるだろうし、「ビートルズの曲ってすごい」って頭で理解しているからだという気もするんですね。この映画に出てくるジャックの両親のように、ビートルズという存在を一切知らないまま、突然「レット・イット・ビー」を聴いたとして、それをきちんと「良い曲だな」と思えるか、というのは、正直自信ないかも、と思ったりしました。音楽でも料理でも絵でも、外的情報に頼らずに、絶対的な評価が出来る人ってのはやっぱり羨ましいと思うし、生まれ変わったらそういう人間になりたいな、と思ったりもします。
あと、エリーが凄く良かったなぁ。凄く良かった。見た目的にも好きな感じだったんだけど、なんというのか、全体の佇まいとか振る舞いとか考え方とか、全部ひっくるめて凄く良かったなぁ。映画を観ながら、ジャックではなく、エリーを応援するような気分が強かったです。ただまあ、エリーのような女性を「良い」と褒めると、「男にとって都合が良い存在だからでしょ」みたいに受け取られそうで、それはそれで不本意ではあるんですけど(笑)
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