【映画】「2040 地球再生のビジョン」感想・レビュー・解説

これはなかなか興味深い作品だった。環境問題を扱う作品は、フィクション・ドキュメンタリー問わず色々あるが、本作は「解決策」のみに特化して取り上げているところが興味深い。確かに、「今どれだけ大変なことになっているか」より、「未来がどうなるのか」を提示する方がいい。

さらに本作では、その「未来の描き方」に1つ制約を設けている。それが「今存在する技術で2040年を描く」というものだ。「まだ実現されていないが、今絶賛研究中で、恐らく未来には実用化されるだろう」みたいなことは扱わない。そうではなく、「現在存在し、実用化もされている技術が、より広く活用されたらどんな未来になるだろうか?」という観点から描いているのである。監督はこれを、「事実に基づく夢の虚構」と呼んでいた。

ちなみに、「今」というのは恐らく2019年なのだと思う。つまり、2019年に作られた映画のはず、というわけだ。というのも、作中では「西暦表示が1つずつ増えていき、2040年になる」という演出が何度か登場するのだが、その始点が2019年なのである。

さらに、「どうして2040年なのか」についてだが、こちらについてはあくまでも憶測だが理由は想像できる。2019年時点で、監督の娘が4歳だからである。

というわけでまずは、監督が本作を作ろうと考えた動機について触れることにしよう。

本作の監督デイモンは、妻ゾーイと、4歳の娘ベルベットとオーストラリアで幸せに暮らしている。しかし、父親であるデイモンは、娘が大人になった時の地球のことが心配でたまらない。娘が25歳になるのが2040年。じゃあその頃の地球は一体どうなっているのだろう? そういう、実に個人的な興味から様々な取材を始めていくのである。

さて、本作は確かに「解決策」に焦点を当てた作品なのだが、さすがに冒頭で少し、「2019年時点における現状」について語られていた。それらにも、少し触れておくことにしよう。

まずは空気中の二酸化炭素濃度について。何十万年前の地球では、180~280ppmで推移していたのだが、現在は40%も増え400ppm辺りを推移している。これにより、地球の熱が二酸化炭素に囚われ逃げられなくなっているのだ。

ではその熱はどこに行っているのか。もちろん、気温の上昇にも影響を与えているが、余分な熱の9割は海が吸収するそうだ。しかしそのせいで、150年前と比べて海の酸性度は30%も上がっている。そのせいで生物多様性が失われているのである。過去5000万年の間で、これほど急激な変化は起こったことがないそうだ。

だから我々は、空気中の二酸化炭素を隔離しなければならない。濃度が350ppm程度になるといい感じらしいが、恐らく2019年よりも現在の方がより、二酸化炭素濃度は高まっているはずだ。

そんな地球をどうやったら蘇らせることが出来るのか。監督は、世界の色んな場所を巡って、その解決法を探っていく。

最も興味深かったのは、バングラデシュの事例である。なんとバングラデシュは、太陽光による自家発電の先進国なのだそうだ。導入している家は5000万軒(と言ってた気がするけど、ホントかな?)にも上り、地方に行けば行くほどその比率は高まっていくという。

それはこんな仕組みである。各戸は「太陽光パネル」と「蓄電池」を購入し、自宅に設置する。さらに、どこかの企業が作っているのだろう、作中では「箱」と呼ばれていた機械を自宅に置く。これだけだ。

各戸の発電設備は、隣家にも接続される。近隣で小規模なグループを作るのだ(作中では6戸程度が1グループみたいな図式がされていた)。そうすると、各戸はシステムで繋がっている近隣の家と電気の売買が可能になる。それを担うのが「箱」である。

しかし中には、太陽光パネルと蓄電池を買えない家庭もある。しかしそう家でも、「箱」だけ自宅に設置しておけば、もしもの時に近隣の家から電気を買うこと出来るのである。

6戸程度で1グループを形成し、そしてそのグループがさらに複数接続され、ボトムアップ式の電力網(これを「スマートグリッド」と呼ぶ)が作られる。そしてこのスマートグリッドは、実に良いことばかりなのだ。

環境問題の絡みで言えば、自然エネルギーによる発電なのだからとてもクリーンだ。しかし、利点はそれだけではない。バングラデシュでは洪水などの災害が多いそうで、そういう時に、従来の集中型の電力網(電力会社が発電し、電線で電気を届ける仕組み)だと復旧にもの凄く時間が掛かる。しかしスマートグリッドの場合は、住居の被害を受けなかった場合はそのまま電気を使い続けられるのだ。作中に登場したある人物は、「スマートグリッドは実に効率がいい。何せ、使う場所で生産するんだから」と言っていた。確かにその通りである。

しかし個人的に一番「なるほど!」と思ったのは、「お金が地域に留まる」という話だ。意味が分かるだろうか? 集中型の電力網の場合、電気代は電力会社に支払う。しかしバングラデシュのスマートグリッドの場合、電気代は隣家に支払うのだ。村の中でお金が滞留していくので、「搾取」みたいな構造にならない。これは凄く良い仕組みだなと感じた。

では、どうしてこんなに素晴らしい仕組みが広がらないのだろうか? 作中で指摘されていたのは、化石燃料会社による印象操作である。彼らは10億ドル規模のお金を使って、「化石燃料による発電が必要だ」という世論を意図的に作り出しているという。また、アメリカの成長戦略にも関わっているのだろう(たぶんアメリカの話だと思うけど、監督がいるオーストラリアの話かもしれない)、石油燃料会社に対してだったかは忘れたが、「毎分数千ドルにも及ぶ助成金の一部を使えば賄える」みたいな表現が出てきた。

スマートグリッドは、技術は存在するし、既に普及している国も存在するのだが、既得権益を守りたい人たちによる妨害によって広まっていない、というわけだ。これがホントだとしたら(ホントだと思ってるけど)、クソみたいな話だなと思う。

さて、続いて語られるのは「自動運転車」についてである。自動運転車に関しては、「確かにガソリンは使わないが、自動運転車を動かす電気をどう発電するかによるよな」みたいな部分もあると思うので、自動運転車だけで環境問題の改善には繋がらないように思っていたのだが、それはそれとして実に興味深い話が出てきた。

それは、「ロサンゼルスの2/3は道路か駐車場」という話である。この事実には驚かされた。それはちょっと、壮大な無駄じゃないだろうか? しかもアメリカは、NYの話だからロサンゼルスとはまた違うが、「渋滞税」を徴収することに決まった(調べたら、もう運用が始まっているそうだ)。次期大統領のドナルド・トランプが渋滞税に反対しているみたいな話も聞いたことがあるのですぐ撤廃されるかもしれないが、とにかく、そんな税金を課さなければならないほど渋滞が凄まじいのである。

ロサンゼルスの渋滞の程度は知らないが、それなりに混んでいるだろうし、それが「全体の2/3が道路と駐車場」という中で起こっているというのだから、ちょっと異常過ぎると思う。

本作で提示される未来は、「自動運転車を個人が持つ」のではなく、「個人はもう車を手放し、車を含む移動手段はすべて自治体が管理、バスなどの仕組みを整えて、道路を走る車の総数を減らす」というものだった。この場合、やはり自動車業界からの反発が出てくるように思うし、一筋縄ではいかないような気もするが、確かにそれが実現するなら、道路も駐車場ももっと減らせるし、その空いたスペースを上手く活用して人々の生活をより良く出来るかもしれない。なかなか面白いなと思う。

ちなみに、広く「移動」の話と捉えて、本作では、2016年の輸出入のデータが紹介される。その1つが、「アメリカは、輸出したのと同じ量の牛肉を輸入している」というものだった。もちろん、「日本がアメリカ産の安い牛肉を仕入れ、アメリカが割と値の張る和牛を輸入する」みたいなこともあるだろうし、「牛肉」と一括りに出来ない側面はあるということは分かっているが、それにしても「変な話」と感じてしまうだろう。これらも、船など化石燃料を使用した移動手段で運んでいるわけで、そういう「無駄」を無くしていくべきじゃない? なんて考えさせるデータだった。

さて、もう1つ興味深かったのが「農業」だ。多くの人が、「植物は二酸化炭素を吸収し、酸素を吐き出す」と知っているだろうし、だから植物が多くなれば大気中の二酸化炭素濃度も減るだろうことは理解できるはずだ。

しかしそれだけではない。植物は二酸化炭素を取り込んで糖を作り、それを土壌中の微生物が食べることによって、間接的に「空気中の二酸化炭素を土壌に取り込む役割」も担っている。そしてなんと、土壌が炭素を取り込むことによって、土壌の保水力が増すのだそうだ。これは、作物を育てる上でも重要だし、あるいは、豪雨などの際にも土壌の保水力が高い方が有利になるはずだ。

そして、そのサイクルの一端を担うのが牛(を始めとする家畜)だそうだ。作中に登場した農家は、カラッカラだった土に植物を植え、そこで牛を放牧するみたいなサイクルを繰り返すことで、メチャクチャ良い土壌に作り変えたそうだ。ある学者(なのかな?)は作中で確か、「農家がいなければ環境問題の解決などおぼつかない」と言っていたし、「化石燃料を燃やすことより、土壌の衰えの方が遥かに影響が大きい」とも話していた。国土の狭い日本ではどの程度の影響があるか分からないが、何もしないよりはいいだろうし、「農家」は環境問題においてとにかく重要な存在なのだそうだ。

しかし映画の最後に、「環境問題を改善する、最も重要で予想外な対策」として「女性の教育と家族計画」が挙げられていた。その理屈は是非映画を観てほしいが、「女性に力を与えることが、最も強力な解決策」なのだそうだ。この話もまた興味深いと言えるだろう。

そういう話をすべて踏まえると、やはり結局のところ、「既得権益を守りたい旧来な勢力」が環境問題の改善の邪魔をしていると考えるしかないように思う。まったくやってられないが、そういう現実なのだから仕方ない。

ただ本作では、様々な解決策が紹介された後で、ある専門家が「環境問題に対して、個人が力を発揮できる部分はもの凄く多いのです」と話していた。そんな風に言われると、「自分にも何か出来るだろうか?」みたいに感じられたりするんじゃないだろうか。

僕は今41歳で、正直なところ「自分が生きている間ぐらいはなんとかなるだろう」みたいに思ってしまっている部分がある。良くないなぁ、と思いつつも、まあそれが本音ではある。しかも結婚していないし子どももいないので、「自分の子どもが大きくなった時に幸せな地球であってほしい」みたいに思うこともない。ただそれでも、それなりの関心は持つようにしているつもりだ。

そして世の中には、結婚して子どもを育てている人もたくさんいるわけで、そういう親からしたら「環境問題」はマジで自分事であるはずだと思う。簡単ではないかもしれないが、本作を観ると、不可能ではないと思わせてくれる。スマートグリッドに関して専門家は、「太陽光パネルと蓄電池なんかホームセンターで安価に売ってるんだから、スマートグリッドの流れを政府や電力会社が止められるはずがない」みたいに話していた。後は、バングラデシュでシステムを広めた人物のように、先頭に立って音頭を取る人がいればいいのだ。

そして、あなたがその役割を担っても、もちろんいいのである。

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