【映画】「Eno」感想・レビュー・解説
さて、いつものように僕は「ブライアン・イーノ」が誰か知らずに本作を観た。というか、本作を観る前に、知り合いとこんな会話をしたぐらいだ。
「今度『Eno』って映画を観るんだけど。誰だか知らないけど」
「イーノだとしたら、ブライアン・イーノぐらいしか思いつかない」
「あ、たぶんそれだと思う。で、ブライアン・イーノって何の人?」
「ミュージシャンかな」
本作について知っていたことはただ1つ。仕組みことわからなかったものの、「観る度に内容や構成が変わる作品」ということ。だから、僕が観たものが、他の人が観るものと同じかどうかは分からない。公式HPによると、
【ブライアン・イーノへの長時間のインタビュー、そして500時間を超える貴重なアーカイブ映像を組み合わせ、アーティストのブレンダン・ドーズと共同開発した自動生成システム「Brain One(ブライアン・イーノのアナグラム)」を導入。観るたびに構成や内容が変化する映画の常識を覆す全く新しい体験を実現。変化し続けるイーノのように、一度きりの上映体験をお見逃しなく!】
とのこと。500時間以上の素材があれば、「毎回観る内容は別物」と考えていいだろう。なかなか凄いことを考えるものである。
さて、そんな作品だからこそ当然、「ブライアン・イーノがどんな人なのか?」みたいな説明はあまりない。なので、ある程度「ブライアン・イーノ」について知っている人が観る方が面白いだろう。僕はさっきも書いた通り、ブライアン・イーノのことなど何も知らなかったので、例えば僕が観た内容の中で最も「へぇ」と感じたのが、「マイクロソフトのWindowsの起動音を作った」という話。なるほど、色んなことやってる人なんだなと思う。
Windowsの起動音に関するエピソードは結構面白かった。マイクロソフトから長いメールが届いたそうで、そこには「こんな音楽にしてほしい」ということが、大量の形容詞を使って書かれていた。その形容詞だけで、1つのパラグラフが埋まるぐらいの量だったそうだ。そしてメールの結びには、「長さは3秒半でお願いします」と書かれていたという。ブライアン・イーノは「これには笑い転げた」と話していた。「これだけの形容詞を実現するのに3秒半しかないとは」と。
他にも個人的に面白いなと感じたエピソードが、「オブリーク・ストラテジーズ」に関する話。観ている時、これは「曲名」なんだと思っていたのだけど、調べてみると、どうやらそういう名前のカード一式が存在するそうだ。
ブライアン・イーノは、この「オブリーク・ストラテジーズ」というカードをペーター・シュミットという芸術家と共同開発したそうだ。そのカードには、「最も大事なものを破壊せよ」みたいなことが書かれている。カード1枚につき1フレーズである。これを様々な場面でランダムに引き、アイデアの行き詰まりを突破していたという
そんな「オブリーク・ストラテジーズ」に関するエピソードで面白かったのが、デビッド・ボウイとの話である。彼と曲を作る時には、お互いが「オブリーク・ストラテジーズ」から1枚ずつカードを引き、そしてそれをお互いに見せずにおく。そして、お互いがそのカードに書かれていることを守りながら楽曲制作を進めていくのだ。それぞれがどんなカードを引いたのかは、楽曲制作が終わってから明らかにされる。こうすることで、それぞれが思ってもみなかった作品が生まれる、みたいな話だった。これは、音楽制作に限らず、複数人で共同作業を行う際には試してみてもいいんじゃないかと感じられるものだった。
あと、「芸術家であること」について語っていたのも面白かった。
【芸術家であるということは素晴らしいことだ。朝起きて、「さあ、今日は何をしよう」と思えるからね。でも、おっかないこともある。朝起きて、「さて、今日は何をしなくちゃいけないんだろう」と思うこともある】
そんな彼はある時から、朝食を食べることを止めたという。それまで、朝食を食べたりメールをチェックしたりするのに1時間ぐらい掛かっていたそうだが、それを止め、起きてからしばらく何もせずにじっとしていることにしたという。そしてそれによって、内側から湧き上がってくるものがあったというのだ。それからは、とにかく起きてからすぐ「入力」するのを止めて、「朝食を食べられる昼時を待ち遠しく思うようになった」みたいな話をしていた。
このような感じで本作では、ブライアン・イーノの過去の仕事に関するエピソードや、創作に対する向き合い方、何に対してどのような考えを抱いているのかなどについて、インタビューとアーカイブ映像によって紹介される作品である。正直なところ、僕がブライアン・イーノについて知らなかったこと、インタビューでの語りのスピードが早くかつ情報量が多かったこと、するっとは咀嚼できない哲学的な思考が多かったことなどから、「よく分からなかったな」と感じる部分も多かった。また、この土日であちこち動いて疲れていたこともあり、ウトウトしながら観ちゃった部分もある。もう少し「ブライアン・イーノ」に関する事前情報を持ってたらもうちょい集中出来たような気もするけど、ちょっとそこは残念だった。
ただとにかく多才で活動的で多岐にわたる創作を行っている人だということは理解できたし、これからも何か機会があれば追ってみようかなと思う存在ではあった。今何歳なのか知らないが、50年以上もあらゆるクリエイティブの最前線にいる人なんだろうし、それはちょっと驚異的だなという感じがする。
あと、とにかくこの『Eno』は、劇場が埋まるのがクソ早い。日曜日のチケットを、念の為に木曜日ぐらいにチェックしたのだけど、7割ぐらい埋まり始めていたと思う。今日行ったら、ほぼ満席みたいな感じだったかな。日本では7月公開の映画だったけど、なんか公開期間もすぐに終わっちゃった印象で、今回は、角川シネマ有楽町で行われていた、「Peter Barakan's Music Film Festival 2025」で観た。興味がある皆さん、観れる機会がありそうならお早めに。
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