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【本】山本太郎「みんなが聞きたい安倍総理への質問」感想・レビュー・解説

山本太郎に抱いていたイメージは、正直、特になかった。天皇に直接手紙を渡したという出来事も忘れていた。原発の反対運動をしていたことは記憶にあったし、政治家になって政党の名前が変だったこともなんとなく覚えていた。でも、それぐらいの認識だった。僕にとっては、割とどうでもいい人だった。関心を抱かせない人だった。

本書を読むまでは。

『こういうポジションの政治家は、まあほかにはいないでしょうね』

本書は、国会での質疑応答を文字に起こした作品だ。下段に用語の注釈があるが、基本的には、山本太郎の質問と、その時々の回答者からの回答で構成されている(巻末に少し、山本太郎の支援者が語る、山本太郎像についての文章が併録されている)。

面白くなさそう、と思うだろう。国会での質疑応答なんて、面白いのか?と。そう思う気持ちは分かる。僕も、人から勧められなかったら、絶対に読まなかったと思う。

『水上が関心しているのは、普通の議員ではとうてい質問できないテーマのものを、山本は理詰めで固めた上に、細かな時間調整までして、最終的には一種の「ドラマ」として市民に届けようとしたことである』

『事前練習でも本番でもつねにストップウォッチを持って質問に挑み、ボクサーが1ラウンド三分の感覚をスパークリングで体得するように、時間の感覚を身体に刷り込ませた』

山本太郎は政治家になった当初無所属であり、所属できた委員会は一つだけだった。しかしその時から山本太郎は、議場での質問にこだわり続けた。周囲からは、何故そこに注力するのかと思われたというが、山本太郎は、いつか総理と直接対決をする日が来ると考え、その下準備をしていたのだ。

『ここで山本が重視したのはテレビ中継の存在だった。それまでにも街宣活動に力を入れていたが、駅前に立つにしても千人の徴収を集めることは困難である。しかし、テレビならばたとえ1%の視聴率でも百万人が見ている。そもそもが高校時代にテレビ番組に出演して人気を博したことが世に出るきっかけであった。その特性はつかんでいる。中継の入る日に最も重要だと思う質問をぶつけることで問題を喚起させることを考えた』

山本太郎の基本的なスタンスは、ショーアップである。自分が質問し、回答者に回答させる、その一連のやり取りを、テレビの前の視聴者にショーとして見せる。そのために相当苦心している。

『本番での質問について、心がけていることがあるという。
「一番大事にしているのは、自分の主張をただぶつけるのではなく、見ている人にそこで起きていることを、前後の流れも含めて、ストーリーとして理解してもらえるようにすることです。(中略)」
野党の政治家ならばまずは反意の主張だが、そうではない。主眼を置くのは、あくまでも「政治」を見てもらうことなのだ。
「それは僕自身、かつてまったく政治に無関心なところから始まっているので、政治に、国会に関心を持てない人の気持ちもわかるからなんです。これでもまだしゃべっている言葉が難しすぎると思っています」』

こういう山本太郎のスタンスは、本書を読んでいるとよく伝わってくる。例えば質疑応答の最中に、こんな発言を入れ込む。

『ということなんですが、今の答弁はあまりにも長過ぎて、テレビを御覧の方は何を言っているか全く分からなかった方、大勢いらっしゃると思います。要は、~』

山本太郎は、常に見ている人のことを意識している。テレビの向こう側でこのやり取りを見ている人のことを意識している。彼らに関心を持ってもらいたい、このやり取りを理解してもらいたい。そういう思いで山本太郎は国会での質疑応答に臨んでいる。

しかし、ショーだからと言って、お遊びみたいな質問をしているわけでは当然ない。むしろ、誰もが出来ない切り込み方で、権力者や責任者に牙を剥く。それを理詰めでやる知性が山本太郎にはある。

『そもそも質問の組み立てがすごく理性的なんですよ。私は法律家だから演説の勢いよりも文章としてのロジックや行間を読みます。政府の出してくる条文を読めば、その背景の思想もわかる。私は今までに他の政治家の質問も嫌と言うほど聞いています。そうすると山本さんの質問って、すごく言葉遣いが丁寧だし、相当細かくロジックを踏んでいることがわかります。そして決めつけが少ないんですよ。たとえば野党がよくやる「こうなんでしょ、どうせ」ってけっして言わない。』

印象的だった質疑応答がある。安保関連法案に関係して、イラク戦争でアメリカ軍が行った戦争犯罪と、安保関連法案によって自衛隊がその戦争犯罪に加担することになってしまう危惧を明確に示して見せた質疑応答がある。

まず山本太郎は、「ジュネーブ条約などの国際人道法違反を行えば、それがたとえ米軍でも支援、協力はしない」という総理の言質を取る。その上で、フリージャーナリストの志葉玲氏が撮影したイラク戦争での写真を元に、「アメリカ軍が明らかに民間人を殺している、これは国際法違反だろう」と詰め寄る。総理は、「この事案について承知していないので答えられない」と逃げるのだが、さらに山本太郎がした質問が見事だ。


『では、分かりました。じゃ、何が戦争犯罪かということをもっと分かりやすいたとえ、総理には必要だなということを今感じたので、お聞きしたいと思います。
米軍による爆撃、我が国も受けております。広島、長崎、それだけじゃない、東京大空襲、そして日本中が空爆、爆撃をされた。それによって五十万人以上の方々が亡くなっていますよ。この五十万人の中に、そのほとんどを占めるのが一般市民じゃないですか。子供、女性、民間人への無差別攻撃、アメリカによる広島、長崎の原爆投下、それだけじゃなく、東京大空襲を含む日本全国の空襲、民間人の大虐殺、これは戦争犯罪ですよね、国際法違反ですよね、いかがですか。』

本書の巻末には、この質問に対するこんな評価が載っている。

『冒頭、「米軍による広島、長崎への原爆投下は戦争犯罪です。総理、お答えください。違いますか、これ」という質問をぶつけた。議事を進行していた鴻池議長が後に、「あの質問に答えられないのが保守の堕落や」と記者団に向けて山本の質問を称賛したという幕開けだった』

この一連の質問から、山本太郎は、「アメリカが戦争犯罪に加担した時、総理は自衛隊を撤退させられるのか」「自衛隊の活動範囲を広げようとするならば、過去の戦争の検証がまず先にあるべきだろう」という問題提起をする。この一連の流れは本当に見事だと感じた。山本太郎の圧勝という感じである。

山本太郎は、安保関連法案にだけ噛み付いているわけではない。沖縄の基地問題、ジャパンハンドラーズというタブー、貧困層を自衛隊に取り込もうとする経済的徴兵制など、その時その時で山本太郎が重要だと感じた問題について詰め寄っていく。恐らく本書は、安保関連法案や戦争、自衛隊、そういう周辺の問題についての質疑応答に絞って書籍化されているはずだ。恐らく山本太郎は、もっと幅広い問題について議論を戦わせている。

そしてそれは、確実な証拠こそないが、現実を動かしている。山本太郎が国会議員として初めて行った質疑で、原発作業員の日当の搾取問題を取り上げた。その三日後、東京電力は下請け作業員の日当を一万円増額すると発表した。また、雇用保険給付の申請期間が伸びたのも、山本太郎の事務所が厚生労働省にしつこくアプローチしたことで実現したという。一つ一つは小さな成果かもしれないが、山本太郎が質問を繰り出すことで、確実に社会が良い方向に変わっているのだ。

国会質問の前に、「質問取り」というシステムがある。これは、質問者がどんな質問をしようとしているのかを先に知る、というものだ。その方が回答者は対処しやすいし、質問者としても、事前に準備してもらえる方が正確なデータを知れて良い。

山本太郎が国会で、度肝を抜くような質疑応答をするにつれて、この質問取りに来る人数がもの凄く増えたという。山本太郎は何を聞いてくるか分からない、という恐れが、回答者側を動かすのだ。それはつまり、それだけ回答者側が、山本太郎の質問を警戒していることの現れでもある。

この質問取りで山本太郎は、相手に失礼な態度を取らないと決めている。山本太郎側としては、妨害されたくない気持ちから、出来るだけ質問が分からないようにしておきたいが、その辺りはバランスを考えて穏やかになるようにしているのだと言う。そういう真摯な態度が、人を動かすこともある。

『質問取りではない通常のレクチャーの際だったが、議論していた経済産業省の官僚が、去り際にぽつりと「妻が原発に反対していて、山本さんのファンなんですよ」と言って帰っていったことがあった』

【知識を備えた上での“無知”は最強だ】

本書を読んで僕は、強くそう感じた。

『山本が外部の人々と繋がるのは、自身の事務所を開かれたものにしたいという本人の強い意志の表れでもあるが、他方、あまりにも山本が何も知らずに政治の世界に飛び込んだことを知った人々が、さすがにこれは放っておけない、という危機感から自然と集まってきた、というのも実情である』

彼のブレーンの一人となった雨宮処凛は、こんな風に語っている。

『でも、ある脱原発のイベントではじめて会って、ああこれは全然本気でやっているんだな、と本当にびっくりしました。まだ議員になる前のことでした。いずれにしても、今の日本でああいう(芸能の)世界で育ってきたら、絶対自己保身というか、大人の作法を身につけているじゃないですか。たとえば私なんかは、何に反対したって何のリスクもないし、それが逆に仕事になっているようなところもある。なのに彼は、自分のそれまでの仕事すべてを失ってまで、やるわけです。そしてまったく冷笑的なところがない人。自分の言うことにいちいち照れないし、かつ、けっしてあきらめない。まっすぐすぎて、衝撃でした』

『そのあと、彼が選挙に出るって聞いたときは、さすがにちゃんとしたバックがいてお金もあるんだ、と思ったけど、じつはこの人、本当に何もないんだ、というのがわかってきた。そのときは当然のようにして落選して、ああやっぱりこの人は何も知らないんだ、ってことにはっきりと気がついたんです。それでこれはマジでヤバい、と思って、いろんな人を引き合わせたりしました。気がついたら巻き込まれているというか、逃げ遅れているというか(笑)』

まったく何も知らなかった山本太郎が、国会の質疑応答で、回答者の矛盾を突き、回答者の曖昧な回答を一刀両断し、理詰めで相手を追い詰めていく。理詰めで正論をいいながらも、堅苦しくしすぎず、テレビの向こう側の一般市民にも届く言葉で語る。相当勉強しただろう。熱意だけでここまで知識を吸収し、自分のものにし、さらにパフォーマンスとして昇華させることが出来るのか、と驚かされる。

『山本は孤立をまったく恐れていないんですね』

山本太郎は、安保関連法案の議決投票の際、たった一人で牛歩を行った。一人で牛歩をしても多勢に無勢と山本太郎自身も当然わかっていただろうが、それでも、罵詈雑言を浴びながらも、山本太郎は牛歩をやりきった。そして演台で彼はスピーチする。

『アメリカと経団連にコントロールされた政治は止めろ
組織票が欲しいか
ポジションが欲しいか
誰のための政治をやってる
外の声が聞こえないか
外の声が聞こえないんだったら政治家なんか辞めた方がいいだろう
違憲立法までして
自分が議員でいたいか
みんなこの国変えましょうよ
いつまで植民地でいるんですか
本気出しましょうよ

安倍総理
いいお土産が出来ましたね
ニューヨークに行くのに

ひっくり返しますからね』

何を目標にして政治に関わるか、と問われた山本太郎は、こう返す。

『一番は、あなたは生まれてきただけで価値があるんですよ、と思わせてくれるような社会を作りたいということですかね。当たり前のことだと思うんですけれど、生まれてきてよかった、とみんなが思えるのがいい。そのためには、私という存在が認められなければないけないし、あなたという存在を認めたいんだ、と。』

あまりにも真っ直ぐすぎて、普段の僕はこういう発言は好きになれない。しかし、山本太郎のそのあまりに真っ直ぐな、しかし情熱だけではなく知識と覚悟と戦略に満ち溢れた質疑応答を読んだ今、山本太郎になら何か出来るのではないかと思えるし、山本太郎のその真っ直ぐ過ぎる発言を、そのまま受け入れてもいいかという気持ちになっている自分がいる。山本太郎の質疑応答を実際に見てみたくなるし、山本太郎がこれからどんな風に社会を変えていくのか非常に関心がある。

この感想では、山本太郎の質疑応答そのものについてはほとんど触れなかった。是非とも本書を読んでそのやり取りを実感して欲しい。

凄い男がいたものだ


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