【映画】「ベン・ハー」感想・レビュー・解説

これは面白かった!約4時間ある映画だけど、ストーリーがシンプルで、かつ、「死ぬほど金掛かってるだろうな」ということが分かるセットや小道具に圧倒されるし、「馬のレースシーン」は「どうやってこんなん撮ったんだろう?」と思わされるほど凄かった。あと、まったく物語を知らずに観に行ったんで、ラストの展開で「まさかあの人が出てくるのか!」って思ってビックリした。「なるほど、こういう感じなのかぁ」と思ったりした。

というわけでまずはざっくり内容紹介。

物語は紀元26年(って表示されたんだけど、要するに西暦26年)のユダヤが舞台(この当時は「ユダヤ」というのは地名だったようで、その首都はエルサレム)。そのエルサレムは、ローマ帝国の支配下にあった。ユダヤ人は支配下にあっても信仰を捨てず、いつか救世主が現れるという預言を信じていた。いつか自由と解放が得られるはずだ、とも。

そんなエルサレムにローマ帝国軍の新たな司令官として赴任してきたのがメッサラである。彼は14歳までエルサレムに住んでおり、ユダヤ貴族であるベン・ハーとは幼馴染だった。かつて「いつか戻って来る」と約束していたようで、メッサラは「約束通り戻ってきたぞ」とベン・ハーに言う。

征服者と被征服者という関係だが、「友情は汚れない」とメッサラは考えているし、ローマ人とユダヤ人という立場は異なるものの、エルサレムにおいて信頼の篤いベン・ハーの意見を聞きながら上手くやっていこうと考えている。ベン・ハーの妹のティルダは昔からメッサラのことを慕っていたようで、そういう意味でも2人の関係性は昔のまま続く……と思われていた。

しかしやはりそう上手くはいかない。ある日メッサラがベン・ハーに「ユダヤ人の反乱分子を教えろ」と言ってくる。要するに、密告だ。ベン・ハーにとって彼らは「反乱分子」ではなく「愛国者」であり、さらにそもそも「暴力」に反対していることもあって、ベン・ハーは「裏切り者になるくらいなら愚か者でいい」と、密告者になることを拒絶した。そしてこのことが結果的に、ベン・ハーを追い詰めることになる。

しばらくして、ローマ帝国軍の行進を自宅の屋上から見ていたティルダは、少し身を乗り出した瞬間に瓦に触れてしまい、運悪くそのまま落ちてしまった。そしてさらに不運なことに、その瓦が総督に当たってしまったのだ。

ベン・ハーは当然事故だと訴えるものの、ベン・ハーだけではなく、母と妹も拘束されてしまった。親友に頼み込み、母と妹だけは解放してほしいと言うも、メッサラは「私も頼んだぞ」と、密告しなかった過去を指摘してくる。そのままベン・ハーも母・妹も処罰を受けることになった。ベン・ハーは奴隷船に送られ、その後ガレー船の漕ぎ手として海戦に参加させられる。

もはや復活の芽などあり得ないようにしか思えないが……。

というような話です。

舞台設定も登場人物も日本人には全然馴染みはないと思うが(ざっくり調べたところ、ベン・ハーというのは実在の人物ではなさそうだ)、それでもストーリーはするっと理解できるんじゃないかと思う。とにかくシンプルだからだ。物語が動き始める前、冒頭10分ぐらいは上手く掴みきれないかもしれないが(エルサレムの説明や、メッサラやベン・ハーのざっくりした紹介の場面)、メッサラとベン・ハーが幼馴染だと分かってからは、「友情を無視した裏切りによりベン・ハーが大変な目に遭うけど、メッチャ色んなことがあって『復讐』のために舞い戻ってくる」みたいな展開になる。

さて、今「復讐」と書いたけど、これは正直あまり正確な表現ではない。という説明のために、まずはベン・ハーがどんな人物なのかに触れておこう。

ベン・ハーも他のユダヤ人と同じく、強い信仰心を持つ人物として描かれている。この時代はまだ、キリスト教やイスラム教が生まれる前であり、それら宗教の元になったユダヤ教が信じられている。後にキリスト教を取り込むはずのローマ帝国は、この時点では無神論的な考え方のようで、「皇帝こそが唯一の神」みたいな表現を使っていた。そしてそんなローマ人からすると、「いつか救世主が現れ、自由と解放をもたらす」なんて預言を信じているユダヤ人は「おかしく」見えるようだ。

しかし、ベン・ハーを始めとするユダヤ人は、「命は神からもらったもの」「神の意思によってすべてが決まっている」みたいな風に考えている(と思う)。そしてこれも宗教から来る発想だと思うのだが、「暴力に訴えるべきではない」とも考えている。最初にメッサラから「何かアドバイスをくれ」と言われたベン・ハーが、「軍を引き揚げろ。そしてユダヤ人に自由を与えろ」と言う場面がある。これも結局のところ、「暴力による支配は何も生まないぞ」という意味の忠告だったのだと思う。

そしてだからこそ彼は「復讐」という発想をあまり良しとしていない。「復讐」も結局「暴力」だからだ。そんなわけで、ベン・ハーは決して「復讐」のために生きていたわけではない。

じゃあ何が目的だったのかと言えば、「囚われてしまった母と妹救い出すこと」である。2人を救い出すためには、メッサラと対立しなければならず、結果としてはそれが「復讐」みたいになってしまう、という話であり、ベン・ハーは基本的に「2人を救い出せさえすれば、他のことはどうでもいい」と考えているのだと思う。

それは、ガレー船でのある場面でも明らかになると言えるだろう。彼は奴隷として拘束されている身ではあるのだが、「見どころのある奴」と見込まれ、アリアス司令官に呼び出される。ベン・ハーが彼の居室に足を踏み入れた時、アリアス司令官はベッドの上で寝ていたのだが(だから僕は最初、ベン・ハーがアリアス司令官を殺しに来たのだと思った)、ベン・ハーは彼が目を覚ますまで待っていた。ベン・ハーからすれば「無実の罪で捕まえ、漕ぎ手としてこき使っているローマ帝国軍」のことが憎くないはずがないだろう。しかし、確実に殺せたはずなのに、ベン・ハーは一切そんな素振りを見せないのである。

目覚めたアリアス司令官もそのことを不思議に思って尋ねている。すると彼は、「まだここで死ぬわけにはいかないから」と答えたのだ。もし彼が「復讐」のことだけを考えていたとしたら、アリアス司令官を殺していただろう。しかし彼の最大の目的は「母と妹を救い出すこと」だった。だから、その可能性が高くなる選択肢を常に取り続けるのである。そして結果的には、アリアス司令官を殺さなかったお陰で、その後の展開が続くことになる。これ以降の展開もなかなか面白くて、なるほど4時間掛けて描くだけの物語だなという感じである。

あとストーリー展開で言えば、割と最初の段階で「あれ、これはあの人なのか?」とちょっと思ったのだけど、その後すっかり忘れてて、で、ラスト付近にまたドドンって出てきて、しかもラストの展開ではほぼ主人公的な感じになっていくのに驚かされた。凄いな。色んな映画を観ているつもりだけど、あの人がこんなにドーンとちゃんと映し出される映画ってなかなかない気がする(まあそりゃそうだろって感じだけど)。

しかし、最後の最後、まさかとは思ったけどまさかの展開になって、さすがに「これはちょっとなぁ」と感じた。他の場面では、ストーリーや設定や展開に対して特に違和感を覚えることはなかったけど、最後のアレは、個人的にはちょっと許容しにくいなぁ。まあ、ああしないと「ハッピーエンド」で終われないから仕方ないのかもだけど、それにしてもって感じがした。

あと個人的には、最後の方でベン・ハーがある人物と「決別」的な会話をするシーンの話の内容が興味深かった。ベン・ハーはローマ帝国のやり方を許容できないと感じるわけだが、会話の相手は、「偉大な権威、偉大な感情だからこそ、誤りも大きくなる」「誤りがあるから進歩もあるのだ」「完全な自由など存在しない」と、ベン・ハーを諭そうとする。この場面、観客の多くはベン・ハーに共感しているはずで(僕もそうだった)、だから、会話の相手の言っていることが悪く聞こえるんだけど、シンプルに内容だけを取り出したら、結構的を射たことを言ってるんだよなぁ、という感じもする。まあ、ローマ帝国のやり方は嫌いだけど。

まあそんなわけで、ストーリー的には実にシンプルで、宗教的なあーだこーだの知識がなくても別に全然楽しめると思う。

で、セットとか舞台装置とかの方も凄い。神殿とか、大量のエキストラの衣装とか、「これマジで全部作ってるんだよなぁ」と思う。CGが存在する時代の作品なら、エキストラなんかはちょちょいっと足したり出来るのかもだけど、そんなこと出来ないのだから、全部実際に作って配置するしかない。本作では、「ここは合成だろうな」ってシーンはちょいちょいあったけど、それにしたって別々の映像を合成しているわけで、それぞれの映像は作らなきゃいけない。マジでどんだけ金があったらこんな映画作れるんだよ、って感じだった。

その中でも驚きだったのが、「海戦」と「馬のレース」である。

海戦の方は、「遠景のシーンは、もしかしたら小さい模型を浮かべてるのかな」とか思ったけど、なんかそうじゃなさそうだ。とすれば、あの大量の船も実際のサイズで作ってるんだろう。異常だ。しかも、実際に海で撮ってるってことだよなぁ。ムチャクチャなことしてるだろ。

でもそれ以上に意味が分からなかったのが馬のレースだ。ホントにレースをやってそれを撮ってる風にしか見えないんだけど、そんなことしたら死人が出るだろ、って感じのレースで、「無理でしょ、こんなの」って思う。人間だけのシーンなら気力でどうにかなるかもしれないけど、このシーンは本物の馬が使われてるわけで、馬まで完璧にコントロールするなんて不可能だと思う。まあ、今とは時代が違うから、「馬の1頭や2頭、ホントに死んじゃってもしょうがない」ぐらいのテンションで撮影されたのかもしれないけど、仮にそうだとしても凄いなと思うような映像だった。

まあそんなわけで、物語的にも映像的にも大満足の作品で、僕はホントに『ベン・ハー』っていうタイトルだけなんとなくギリギリ聞き覚えがあってそれで観に行っただけなんだけど、観て良かったなと思う。「午前十時の映画祭」の企画で観たけど、それでの上映は今日までのようだ。まあ配信でも観れるだろうけど、これはホント、特に馬のレースシーンは圧巻だから、劇場で観るとより良いんじゃないかなという気がする。ちなみに、2時間ぐらい経ったところで、休憩があった。

あと、マジでこれは謎過ぎたんだけど、映画の最初、僕の体感では5分ぐらい、「真っ暗な画面のまま音楽だけ流れる」という状態が続いて、「これ、ホントは始まってるはずなんだけど故障か何かしてるんじゃないか?」と思ったりした。あの体感5分は一体なんだったんだろう。意味不明である。

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