【映画】「プロジェクト・ヘイル・メアリー」感想・レビュー・解説

いやー、爆裂に面白かった!ほんと久しぶりだなぁ、メチャクチャ期待して観に行って、その期待をブワンって超えていくような感じは。ミステリ的な展開もありつつの壮大なSFで、だけど人間ドラマもある。こんな物語はまあなかなかないだろう。ぶっ飛んで面白かった。ちなみに、原作は読んでいない。まあ、原作はきっと、映画より遥かに面白いんだろうなぁ。

というわけで、まずは内容の紹介から。

宇宙船で1人の男性が目覚めた。自分がどうしてここにいるのか、よく分からない。船長のヤオと、操縦士のイリマヒナは死亡。生きているのはどうやら自分だけのようだ。何が起こったのか分からないまま、彼は船内で状況把握を試みる。

中学の教師をしているグレースは、生徒たちから「ペトロヴァ・ラインって何?」と聞かれる。しばらくはぐらかしていたが、いよいよ説明せざるを得なくなった。それは2年前、電波望遠鏡が捉えたものだった。太陽から金星に向かって続く赤外線が観測されたのだ。生徒たちから「地球はどうなるの?」と聞かれた彼は、「影響は小さい」と嘘をつくが、子どもたちも詳しい。仕方なく彼は「今後地球の気温は10~15度ぐらい下がる」という予測を伝える。ペトロヴァ・ラインは太陽光のエネルギーを奪っており、地球に届く太陽エネルギーが減少すると考えられているのだ。しかし彼は、「世界最高の知能が今対策を考えているから大丈夫だ」と子どもたちを安心させようとする。

しかし、何故かそんな彼の元に、ペトロヴァ・ラインから採られた試料の分析をしてほしいと政府の人間がやってくる。ただの中学教師に何故? 実は彼は元々分子生物学の博士だったのだ。しかし、「生命居住可能区域という考えはバカバカしい」と論文に書き、あまつさえ学会で高名な学者を馬鹿にしたことで、科学の世界から追いやられていたのである。しかし、このプロジェクトの責任者であるらしいストラットは、グレースが過去に書いた「生命の進化に水は必要ではない」という文章に目を留め、興味を持った。まさに彼が追放される原因となった仮説なのだが、現在起こっている謎の現象が何らかの生命によるものだとすれば、太陽表面で生きられる生命を仮定する必要がある。しかし、水基盤の生命が太陽表面で生きられるはずがない。「もしかしたら、あなたの馬鹿げた仮説が正しいのかもしれない……」。そんな風に匂わせつつ、ストラットはグレースを惹きつけるのだ。

自分はただの中学教師だと断っていたグレースだったが、やはり好奇心が勝ったのだろう、彼は試料の分析に協力する。そしてそれが生命体であることが確定し、「アストロファージ」と呼ばれることになった。問題は色々あるが、グレースが最も気になっていたのが、「太陽から最も近いのは水星なのに、どうして金星を目指しているのか?」だった。その理由を「二酸化炭素」だと考えたグレースは、実験室内に金星の環境を再現し、そこにアストロファージを置いてみることにした。

ビンゴ。アストロファージはやはり二酸化炭素に惹きつけられているようだ。しかし、発見はそれだけではなかった。特大の成果をもたらすことになったのだ。なんとグレースは「金星の箱」の中に4匹目を確認したのだ。試料の中には3匹しかいなかったはずなのに、である。

繁殖の成功である。

こうして彼は、よく分からないまま洋上の艦船に連れて来られ、そしてそこで「プロジェクト・ヘイル・メアリー」への参加を促された。「ヘイル・メアリー」とは「神頼み」という意味である。実現可能性があるとは思えない荒唐無稽な作戦であり、グレースはその内容に驚愕した。

そもそも、「グレースによる謎の生命体の繁殖」が注目された理由は、「このプロジェクトに200万トンものアストロファージが必要だ」とされていたからだ。そんな大量のアストロファージがどうして必要なのか。そこにはこんな事情があった。

ペトロヴァ・ラインによる影響は地球のみならず、太陽系外の惑星も含めた広範囲に渡っていた。しかしその中で、地球から11.9光年離れたタウ・セチという恒星だけが何故か無事だったのだ(太陽も恒星であり、普通に考えれば同じようにペトロヴァ・ラインに侵食されているはずである)。そこで、そのタウ・セチまで向かって原因を究明するというのが「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の骨子である。

ただ、惑星間航行の最大の問題は「燃料」だった。航行距離に応じた燃料を搭載しようとすれば莫大な量になってしまうからだ。そこでアストロファージである。アストロファージはごく微量でも大量のエネルギーを蓄えることが出来る。実験では、ほんの僅かなアストロファージを使い、1tもの金属を一瞬で溶かすことに成功していた。計算では、200万tのアストロファージがあれば、タウ・セチまでの“片道”の燃料は足りる。

そう、「片道」である。このプロジェクトでは、宇宙飛行士の帰還は想定されていない。操縦士・技術者・科学者として予備も含めたクルーが用意されたが、彼らは任務を果たしたらそのまま宇宙空間で死ぬことになっている。

そして、そんな多大な犠牲が想定されていながら、なお「神頼み」でしかない無謀な挑戦なのである。

グレースは、アストロファージの第一人者として、クルーたちのミッションが成功するようにバックアップするのが仕事である。あまりにも無謀だったプロジェクトだが、ようやく出発の目処がつき……。

というような話です。

本作は、2つのストーリーが同時進行という感じで、1つは「グレースが試料の分析をきっかけにプロジェクト・ヘイル・メアリーに関わっていく物語」であり、上述の内容紹介はこの部分をメインにした。そしてもう1つが「宇宙船でたった1人目覚めたグレースが、地球の人類を救うために奮闘する」という壮大な物語である。

そう、もちろん宇宙船で目覚めたのはグレースである。もちろん彼は、「片道切符」の宇宙船に乗るはずではなかった。というわけで本作では、2つの物語を交互に描き出すことで、「どうしてグレースが宇宙船に乗っているのか?」的な部分が少しずつ明らかにされていくという展開になっていく。

というわけで、話のメインとしてはもちろん「宇宙船でたった1人目覚めたグレースが、地球の人類を救うために奮闘する」という方だ。いやはや、ホント面白い。

予告でも描かれているので書くが、グレースはタウ・セチ付近で別の宇宙船と遭遇する。そして彼は、別の惑星からやってきた地球外生命体と出会うのだ。岩のような見た目をしているから「ロッキー」と名付けたのだが(しかし、観終えて冷静に考えてみると、ロッキーにだってちゃんと自分の名前があるはずだよなぁ、とか思ったり)、当然言葉なんか通じないそんな相手と協力してペトロヴァ・ラインの問題を解決する、という物語なのである。

というわけで当然、まずは「コミュニケーション」をどうにかする必要があるが、この辺りのやり取りはメチャクチャ面白かったなぁ。何せ最初は、「相手の船から投げられたメッセージBOXみたいなものを宇宙遊泳しながらキャッチする」という、バカバカしいけどそれしかないかというようなところから始まるからだ(しかもグレースは科学者であり、宇宙服など着たこともないので、その辺りのドタバタもある)。

どうにかメッセージBOXを受け取るのだが、当然文字など伝わらない。相手もそのことが分かっているから、「模型」みたいなものを送ってくる。この辺りは「なるほど」という感じだった。

そんな感じで少しずつやり取りが進んでいくのだが(しかし、「酸素(O2)」はさすがに無理あるだろと思った(笑)。原作ではどうなってるんだ?)、この辺りも面白い。「そうだよなぁ、最初は相手の動きを真似るぐらいしか出来ないよねぇ」とか、メチャクチャリアルな感じで進んでいくのだ。で、「お互いが『時計』を持ち寄ることで『時間』の概念を理解していることを知る」というところからコミュニケーションが一気に進展していく(ただ、たまたまロッキーの惑星も12進法だったのかな?それともあのやり取りは12進法じゃなくても成立するんかな?)。「1」の文字を指してロッキーに「1」の発音をさせ、それをパソコンに取り込んで辞書登録する、みたいなやり方で、地道に「ロッキーが使っている言語の辞書化」を目指すのである。

ここで「なるほどな」と感じたのが、「ロッキーが音波を使って視る」という設定であること。映画では、グレースはパソコンの翻訳機能を使わないとロッキーと会話できないのだが、ロッキーの方はどうもグレースの言葉をリアルタイムで理解できているようだ。恐らく、「視覚ではなく聴覚が進化しているから、未知の言語への対応も容易」みたいなことなんだと思う。この辺りは、物語の都合という側面ももちろんあるだろうけど、上手く処理しているなと感じた。

その後、「かなり早くに辞書化がある程度完成した」ようで(この辺りはさすがにリアリティに欠けるがまあ仕方なかろう。いやでも、どれぐらいで辞書化が終わったのかは示唆されないから、半年ぐらい掛かってるみたいな設定でもおかしくはない)、その後はロッキーの声をパソコンから流す設定にしてリアルタイムの会話が行えるようになっていた。こうなってくると、ロッキーとグレースの会話のやり取りが俄然面白くなってきて、その辺りも見どころとしてプラスされていく。

で、そこからもなんやかんやのトラブルがあったりしつつ、2人はタウ・セチで何が起こっているのか解明しようと試みるという、プロジェクトにおけるメインが描かれる。しかし、メインの物語に到達するまでメチャクチャ長いし、でもそれは「丁寧にかつリアルに状況を描いている」からであって全然不満はない。

さらにここからは、「人間ドラマ」的な話も追加される。これもまたいいよなぁ。もちろん、ロッキーとの間に色んなことが起こるのだが、かなりリアルな状況をきっかけにした緊急事態が頻発する感じで、興味深い。さらに「地球からムチャクチャ離れた宇宙空間」という絶望的に選択肢が限られた中で、「どの選択肢を最善だと思うか?」という状況に何度も立たされる感じも良い。グレースと同じ状況に立たされる人間はまずいないので想像することすら難しいが、「あの場面で、自分だったらどうするだろうなぁ」と考えさせられる場面が多々あるのは面白い。

特に、ラストシーンに繋がるある決断は、かなり悩むんじゃないだろうか。グレースのような決断が出来ない人がいても全然不思議ではないだろう。ただ、分かる部分もある。ここには「グレースが宇宙船に乗ることになった背景」が絡んでくるので詳しくは触れないが、「あんなことがあったんだから、そういう決断になるのも自然かもしれない」という感じもする。個人的には、この辺に愛だの恋だのが絡まなかったところは良かったなと思う。

あと、全然関係ないが、映画を観ていてふと思ったのが、「宇宙空間で髪はなびくだろうか?」ということ。もちろん、映画的な演出だということは分かってるから文句じゃないのだけど、「生身の人間が宇宙空間に晒されても、大気がないから、慣性の法則に従って髪の毛は進行方向とは逆側に引っ張られたままなびかないんじゃないか?」というのが僕の想像なんだけど、実際はどうなんだろう? みたいなどうでもいいことを思ったりした。

ちなみに、どうしても理解できなかったのは、「11.9光年も離れた場所にどうやって行ったのか?」である。「11.9光年」というのは「光の速度で進んでも11.9年掛かる距離」である。にも拘らず、作中では、タウ・セチ付近から地球への帰還年数として「4年ちょっと」みたいな数字が出てくるのだ。光の速度の3倍ぐらいのスピードを出さないと無理だろうし、それは物理学的に不可能だろう。ちょっとここだけは良く分からなかった。タウ・セチに向かうのだって、「地球はあと30年で滅亡する」って言ってるんだから、ちんたら行ってられない。映画では何年で辿り着いたのか示されなかったが、この辺り、原作はどうなってるんだろうなぁ。

そんなわけで、大変満足な鑑賞だった。もちろん、原作の方がより圧倒的に面白いだろう。ただ、映画だけでも十分楽しめるとは思う。僕はいずれ原作を読んでみたいとは思うが、さていつの話になるかな。

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